イケメンエリート軍団の籠の中

便葉

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何でもない世界は本当は美しい世界

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 翌日、舞衣は違う意味で眠れずに朝を迎えた。ソフィアにどう話せばいいのか、その事ばかりを考えてしまい、頭だけが冴えて一睡もできなかった。
 ジャスティンの話では、午前中にはセッティングできると言っていた。ソフィアは、今、上海にいるそうだ。世界を相手に仕事をしているソフィアは本当にカッコいい。

 舞衣はサロンにある大きなテーブルにノートパソコンを持ってきて、頼まれたデータの打ち込みをしていた。


「舞衣、今から大丈夫?」


 ジャスティンにそう声をかけられ、舞衣は急いで打ち込みを完了する。


「社長室で話すから、後で来て」


 舞衣は「はい」と大きな声で返事をすると、急いでデータ上の資料の確認をして終了ボタンを押す。そして、メイクルームで身なりを整えた。

 舞衣は社長室には入らずに入口のドアの前で待っていると、ジャスティンとソフィアの英語での会話が聞こえてくる。二人は楽しそうに笑いながら何かを話していた。舞衣は機嫌のいいソフィアの声を聞いて少し安心する。



「舞衣、きて」


 ジャスティンに呼ばれて社長室に入ると、そこには大きな液晶画面に映るソフィアいた。


「じゃ、俺は行くね。
 ソフィア、お手柔らかにお願いします」


 ジャスティンは泣きそうな舞衣に微笑んで目配せをすると、その部屋から出て行った。


「じゃ、本題に入りましょうか?
 舞衣、私への報告は何?」


 舞衣は深呼吸をして、真っ直ぐにソフィアの映る画面を見た。


「社長、本当にごめんなさい。
 私、社長との約束を破ってしまいました」


 画面に映るソフィアがポカンとした顔で「約束?」と言った。


「は、はい。
 最初にここで話した時、社長はあまり社内恋愛に対していい顔をしていませんでした。
 そして、私も、イケメンには興味がないので心配いりませんと宣言していたのに……」


「いたのに?」


「社長、本当にすみません……
 私、社長にあんな事言っておきながら……

 まだここに入ってほんのわずかなのに、私、伊東凪さんの事を本気で好きになってしまって……」


 舞衣は泣きたくないのにまた涙が溢れてきた。


「本当にごめんなさい……」


「あれ? ちょっと話が違うんだけど…」


「え?」


 ソフィアは怒ってなんかいなかった。思いがけず面白い本を見つけたみたいな、そんなワクワクした顔をしている。


「私がジャスに聞いたのは、凪が舞衣の事を死ぬほど好きになったって」


 舞衣はどう答えたらいいのか分からずに、顔を赤くして下を向いた。


「舞衣?
 私は社内恋愛がダメだなんて一言も言ってないわよ。
 私があなたを選んだのはそれ目当てではないって確信があったから。

 だから、自然に誰かと結ばれるのなら、それはそれで反対なんかしない、むしろ応援するってこと」


 舞衣はホッとしたせいで、まだ涙が止まらない。


「でも、私、社長がせっかく選んでくださったのに、この会社を辞めようと思ってるんです…」


「そうでしょうね……
 そんな事気にしてるんだったら、それは全然大丈夫よ。
 あなたはまだ試用期間だし、この期間は、あなた自身が働けるかどうかを見極める期間だから。
 それは何も心配しなくてもいい」


 舞衣はハンカチを取り出し、何度も涙を拭いてしまう。


「それよりも舞衣、私の方からお礼を言わせて…

 あの凪がこんな事になったなんて、本当に信じられないの。
 頭脳明晰、飛びぬけたコンピューターオタク、他を寄せ付けない仕事ぶり、彼は本当の意味で天才だと思う。
 凪のおかげで、この会社も色々な形で評判を上げることができた。

 でもね、有り余るお金と地位と名声を手に入れても、凪は何も変わらない。
 いつも冷めてて、口数も少なくて、本当に笑ったことがあるのかなって、実は心配してたの。

 さっき、ジャスからちょっとだけ二人の話を聞いて、もう、心が今でも飛び跳ねてる。

 本当に嬉しい……

 凪に愛する気持ちと愛される喜びを教えてくれて、本当に感謝してます…」


 ソフィアの目も潤んでいた。凪は色々な意味で皆から愛されている。


「でも、やっぱり、凪って凄いわ……」


 舞衣は画面の向こうにいるソフィアを見ながら首を傾ける。


「私があなたを見つけたと思っていたけど……
 本当はそうじゃなかったのね。

 凪が私を使って、あの何百人もいる女性達の中から舞衣を見つけたのよ。
 あなたと凪の力強い運命の糸を、凪は私を使って手繰り寄せた。

 あの捕食者以上の凪が、舞衣を見逃すわけがない。

 一本やられたわ……
 でも、凪らしい…

 舞衣、いつでもアメリカに行っていいわよ。

 あなたと凪の事は、心から祝福します……」


 舞衣は、ソフィアの言葉に妙に納得していた。

 凪さんが私を見つけたのかもしれないけど、私だって凪さんを見つけた。
 だって、あんなにたくさんいるイケメンエリートの中で、私は凪さんの瞳に釘付けだったから。
 灰色の髪のちょっと怖そうな伊東凪を、きっと、あの時私も見つけたんだ……





 舞衣がデスクに戻ってくると、そこにはトオルや謙人や映司まで集まっていた。


「舞衣、ジャスティンから聞いたよ」


「お前らいつの間に~~」


 凪とういうキャラがそうさせているのか、皆、本当に驚いている。


「明日、舞衣の送別会をするから」


「え? そんな早くですか?」


 舞衣が急すぎる展開に戸惑っていると、ちょっとだけ不機嫌そうな映司がこう言った。


「早くに凪の元へ行かないと、あいつの事だからすぐに怒ってもう来なくていいって言われるぞ。

 ま、それでも、俺は構わないけど…
 その時は、俺が舞衣の恋人になってやるから」




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