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何でもない世界は本当は美しい世界
②
しおりを挟む「ほんとに嫌になるよ……
マジで、俺、壊れてるかもしれない……
最近の俺は、自分の未来をやたら考えるんだ。
そこには必ず舞衣がいる…
色んなシチュエーションを考えても、やっぱり絶対、俺の隣には舞衣がいる。
未来なんて興味がなくて、人のために生きるなんてあり得ないって思ってた俺が、自分の未来が凄く気になって、たった一人の誰かのために生きていきたいって、そう思ってる……
明日も明後日も一時間後もそれは俺の未来で、俺の未来から舞衣が消えてしまうなんて、マジで考えられないよ…」
舞衣は何も凪に声をかけられない。自分の決意がまだ何も固まらない内は、何を言っても真実ではないような気がするから。
「ごめんな……
本当はこんな事、言うつもりじゃなかった…
俺の拠点はニューヨークで、それは変わることはない。
わがまま言って舞衣を無理やり連れて行くことは、そりゃ簡単だけど、でも、それじゃ嫌なんだ。
俺は舞衣の未来も真剣に考えてる。
願わくば、舞衣の未来に俺の居場所があってほしい。
もし、舞衣が真剣に考えて俺の元へ来てくれるのなら、俺はこの心臓を舞衣に捧げるよ。
死ぬまで舞衣を守るっていうこと……」
凪は静かに息を吸うと、ゆっくりとそれを吐き出した。
「もう、これ以上は何も言わない。
舞衣が、よく考えて……」
その後、二人はベッドに戻りしばらく短い眠りについた。でも、二人とも眠れないのは百も分かっている。ただ、時間が過ぎていく恐怖に耐えることで精一杯だった。
「舞衣…?
俺は自分の部屋に戻るから、自分の時間で会社に行っていいからな。
舞衣の荷物は、タロウに運ばせる。
タロウはしばらくは日本にいるから、何か困ったことがあったらいつでもあいつに連絡しろよ」
凪は背中を向けて眠っている舞衣を後ろからそっと抱きしめた。
「舞衣がどんな決断をしても、俺はそれに従うよ。
だから、ちゃんと考えてほしい。
俺にとって最悪な答えだとしても……
でも、大丈夫だから……
俺は、どんな舞衣でも受け入れる…
舞衣が幸せになる事が一番だからさ…
じゃあ、仕事、頑張れよ……」
凪はそう言うと、ベッドから立ち上がった。そして、それ以上何も言葉は残さずに、舞衣の元から静かに出て行った。
舞衣はシーツに潜り込んで、声を殺して泣いた。
凪さん…
私だって、凪さんがいないと生きていけない…
どうしよう…
私の気持ちも離れたくないって叫んでる。
でも、本当にそれでいいのかな…?
何もかも凪さんに甘えて生きていくことを、そんなことを、神様は許してくれるのかな…?
生真面目な舞衣は、会社では何もなかったように仕事に集中した。というより、まだ何も実感がないという方が正しいのかもしれない。
舞衣と凪の関係を知っているのはジャスティンしかいないこの職場では、いつものようにイケメンエリート軍団の日常が始まる。
トオルに謙人そして映司も、いつもの調子で舞衣にちょっかいを出してくる。そして、今日は、在宅のスタッフも何人か出社しているため、会社内は活気にあふれていた。
「凪さん、急だったんですね…
最後に一言挨拶がしたかったのに」
たまにしか来ない在宅スタッフの人達は、凪のブースを覗いて寂しそうにそう言った。
舞衣はとにかく今日を乗り切ろうと思った。
男性しかいない、舞衣をいつでも甘やかしてくれるこの居心地のいい職場で大切にされながら生活することも選択肢の一つだとしたら、大勢の女性はきっとこちらを選ぶだろう。
でも、舞衣はどんなに給料がよくても、凪以外の優しい男性が近くにいてくれたとしても、心が満たされることは絶対にないと分かっている。
心と頭は別々の生き物……
心にまかせて行動する事が正しいのか、頭の中の理性に従うことが正解なのか、今の舞衣はまだ何も判断ができなかった。
そして、会社に居る時間が過ぎていく程に、凪の存在の大きさに気づかされる。
凪さんは、もう飛行機に乗ったかな…?
舞衣はそう考えては何度も頭を振った。会社に居る間は、凪の事は考えたくない。涙が出たら止まらなくなる。息をする事さえ難しくなる。
でも……
凪さん、寂しいよ……
もう……
凪さんに会いたくてたまらない……
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