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これ以上可愛くならないでよ…
③
しおりを挟む「ねえ、どうしてそんなに涙が出るの?」
凪は舞衣の涙を指でぬぐいながら、そう囁いた。
「なんだか、私……
一週間前までは、大きな幸せは望まないようにって生きてきました。
でも、今は、この素敵な夜景はもちろんのこと、凪さんの事が……
私、凪さんの事を本当に好きになったみたいで…
でも、この幸せが風船みたいにパチンって割れたらどうしようって…」
凪は涙でグシャグシャの舞衣をそっと抱きしめる。しばらく何も言わずに、ただ優しく抱きしめるだけだった。
「舞衣、俺の一週間前だって、こんな事になるなんて想像すらできなかったよ。
一週間前の俺なら、この美しい夜景も、ただ無機質な建物や車の明かりくらいにしか思わなかった。
でも、なんだろう……
今は、この何でもない世界に、愛はそこらじゅうに溢れてるんだなって分かる。
この小さな粒上の光にも、たくさんの優しさが宿ってるんだって。
俺の中で、生きる意味の価値観がきっと変わったんだと思う。
舞衣との出会いは、俺に色々な感情を教えてくれてる、それは今だって進行形で…」
凪はこの極上の空の上で、かけがえのないものを見つけた気がした。
「舞衣、愛してる……
もし、この幸せの風船がパチンって割れたとしても、何度でも俺がもっと大きな風船を膨らましてやるから。
だから、もう泣くな」
凪は舞衣の髪を優しく撫でながら、そう呟いた。そして、堪えきれずに舞衣のぷくぷくの頬にキスをする。
この極上の舞衣の甘い蜜は、凪を違う人間に変えてしまった。愛を知らなかった凪に、本物の愛を教えてくれた。
凪と舞衣を乗せたヘリコプターは、馴染みのある超高層ビルに向かっていた。でも、舞衣は、上空からの景色ではそこがどこか全く分からない。
「そろそろディナーにしようか?」
凪がそう言うと、ヘリコプターは降下し始める。
「まだ分からない?」
凪は窓に張り付いて外を見ている舞衣にそう聞いた。
「も、もしかして…?」
凪は舞衣の隣にきて、一緒に下を覗きこんだ。
「アバンクールヒルズTOKYOに到着~~」
二人を乗せたヘリコプターはアバンクールヒルズTOKYOの屋上にあるヘリポートに難なく到着した。すると、さっき飛行場で別れたはずのタロウがこちらに向かって手を振っている。
「凪さん、これって現実ですか?
映画の撮影とかじゃないですよね…?」
凪は舞衣の手を取り意地悪そうに微笑んだ。
「映画の世界より、俺と一緒にいる現実の方が最高にクールだろ?」
舞衣はこの究極に俺様で自信家で意地悪で、でも、舞衣にだけは最高に優しい凪を本当に心から愛してしまった。
でも幸せに慣れていない舞衣は、それでも心のどこかで不安を抱いている。
「凪さん、幸せ過ぎて怖いです……」
舞衣は、心の底からそう思った。
「うさ子、早く幸せにっていうか、早く俺に慣れろ。
俺の生活はこれが普通なんだから… OK?」
凪は舞衣をエスコートして53階にあるフレンチレストランへ向かった。
ニューヨークの友達が来た時に一度だけ利用した事のあるこのレストランは、凪の部屋から見える夜景とはまた違った素晴らしい夜景が堪能できる。
凪は一番眺めのいい席を予約していた。
そんなシチュエーションに、舞衣は落ち着かない様子でその美しい夜景を見つめている。
「あれ? あまりワインを飲んでないんじゃない?
どうした? 具合でも悪い?」
凪はあれほどのワイン好きの舞衣が、乾杯の時にしか口をつけていない様子を見て心配になった。
「ワインが大好きな舞衣のために最高級のワインを準備したんだけど…
口に合わなかった?」
舞衣は凪を見つめたまま首を横に振る。
「じゃ、何で…?」
舞衣はゆっくりと深呼吸をした。
「凪さん、今日は本当にありがとう…
こんな素敵なお洋服をプレゼントしてもらって、凪さんの準備してくれた極上のデートは私の想像をはるかに超えていて、今でも夢を見てるみたい…
それと、何でワインを飲まないのかって言うと……」
舞衣はクスッと微笑んだ。
「今日のこの出来事を、私の記憶の中に色濃く残しておきたいの。
私、ワインは大好きだけどすぐ酔っ払うでしょ?
酔っ払ったあげく記憶まで飛んじゃうのは、今日は絶対にいや。
凪さんからの最高の贈り物を、一つも欠けることなく全部覚えときたいんです…」
凪はクラクラしていた。別にワインに酔ったわけじゃない。舞衣から飛んできたラブラブビームという類のものが、胸の中心に突き刺さっただけだ。
今日は、ちょっと長めの髪をワックスで固めてアップにした。それは、舞衣がこの髪形が好きだと言ったから。でも、俺のこのヘアスタイルは他の周りの奴らからはめちゃくちゃ評判が悪い。
怖さが増すとか、やくざにしか見えないとか…
舞衣の可愛らしい会話から発せられたビームのせいで、クールで怖いはずの俺の瞳は、見たくはないけど、メロメロのハートの形になってるんだろう…?
俺は、きっと、いや200%、舞衣のこのビームにとことん弱い……
「よし、じゃ、早く食べ終わって、また、家で飲み直そう」
舞衣は目を細めて優しく微笑んだ。ぷくぷくで真っ白なきめ細やかな肌を、少女のようにピンクに染めて。
凪は家に着くと、いつもの舞衣の好きなワインをグラスに注いだ。
「凪さん、私、この服をまだ着ていたい…」
舞衣は凪に気を遣っているのか、凪にそう聞いてきた。
「いいよ…
今日はそのままがいい。
モコモコのうさ子には負けるけど、でも、そのドレス、俺も気に入ってるから」
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