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エリートの感覚についていけません
④
しおりを挟む「な、凪さん……
あの方は誰ですか??」
舞衣は凪の隣に座るとすぐにそう聞いた。
「タロウ?
あいつは、俺の運転手兼、う~ん何ていうかお世話係みたいなもん」
「お世話係?」
舞衣はそれ以上何も聞かないように口をつぐんだ。
だって、お世話係って?
一体、何のお世話をするんだろう…
お年寄りでもない若くて元気な青年のお世話って何がある?
舞衣はジャスティンの顔が浮かんだ。
もしや? 凪さんも??
「何をブツブツ言ってるんだ?」
「あ、いや、あの…
タロウさんと凪さんは、一緒に住んでるんですか?」
すると、前の運転席から声がした。
「舞衣さん、凪さんみたいな完璧な人は、中々、家の中に他人は入れないんです。
だから、僕は、凪さんの家に入ったことはありません。
いつも玄関先で用件を聞きます」
舞衣と同じ位の歳に見えるタロウという男は、凪を尊敬し忠実なのがその姿勢で分かった。
「あ、そうなんですね…
答えてくれてありがとうございます」
タロウはちょっとだけ後ろを向いてニコッと笑った。その時のタロウの視線が、舞衣のうさぎの耳のフードにいくのが分かると、舞衣は急に恥ずかしくなった。
変ですよね? 私のこの恰好…
タロウさん、私、普段はこんなんじゃないんです…
舞衣は本当に恥ずかしくて、下を向いたまま上目使いで凪を見た。
凪の横顔はいつもと変わらない。厳しいの視線の先には流れゆくの夜の景色が映っている。でも、その表情とは真逆に、舞衣の背中に回した手は休まずにうさ子の耳を撫でていた。
舞衣の中でとてつもなく嫌な予感がした。車の窓から見える景色が、見覚えのある景色に変わってきたからだ。
「な、凪さん、私達、一体どこへ向かってるのでしょうか…?」
凪に聞いたはずなのに、お世話係の強面イケメンのタロウがすかさず答える。
「アバンクールヒルズTOKYOへ向かっています」
え? なんで?
もしや、夜景の眺めのいい場所って、あのイケメンバー?
確かに、凪ならまたVIPの個室を取れるかもしれないけど、でも、さすがにこの恰好であのバーへ行く勇気は舞衣にはなかった。
「どうした? 顔が真っ青だけど」
煖房のきいた車の中、舞衣はモコモコのフリースのせいでじっとり汗をかいていた。それなのに、あのビルに向かっているという事実を知ってしまい、今度は急激に体温が下がっている。
「な、凪さん、私、この車の中でやっぱり着替えていいですか…?」
「は? ダメだ」
舞衣は泣きそうになった。
もしかして、私、凪さんのおもちゃになった?
究極のイケメンエリートで超一流の何でも手に入る人達は、最終的にこんなものを欲しがるのかもしれない…
それでいて、凪さんが、ドSだったらどうしよう…
「あの、前に行ったイケメンバーなら、私、行きたくありません……」
「イケメンバー? あの54階の?」
舞衣はますます泣きそうな顔で頷いた。
「あんなとこ行くわけないよ。
このうさ子は俺だけのものなのに、他の連中に見せるはずないだろ?
俺の家へ行く。そこで飲み直そう」
舞衣は凪の横顔を見ていた。
男気に溢れていて、その上鋭い細い目元からは品の良ささえ感じられる。濃いグレーの独特の髪は、光沢のある黒いスーツに映えていた。
あのビルにある52階の住居スペースはとてつもないお金持ちしか住む事ができないと、ジャスティンが言っていた。
こんなに若くて独り身で見た感じは一風変わった奇抜なイケメンが、実は億万長者で世界を牛耳っているなんて、きっと誰もが想像もできないだろう。
そんな凪さんを私は夢中にさせてる?
いや違う、私じゃなくうさ子だけれど…
いつの間にか、凪のベンツはビル内の地下駐車場に停まった。タロウはすぐに車から出て、後部座席のドアを開ける。
「じゃ、行こうか」
舞衣の体が動かない。無意識の内に足腰に精一杯の力を込めている。
「ほら、行くぞ」
舞衣が先に出ないと凪も降りれない。それでも舞衣は動かなかった。
「凪さん、私、あのビルのフロントやロビーとかに行きたくありません。
こんな恰好でウロウロしたら、警察に通報されます」
凪とタロウは顔を見合わせて笑った。凪は横に座る舞衣をわざとずんずんと外へ押し出す。
「うさ子よ、52階に住んでいる凪様を甘く見ちゃダメだぞ。
そんな自分の家に帰るのに、なんであんなロビーを通らなきゃならないんだよ」
一般市民で育ってきた舞衣には、その凪が言っている意味が分からない。
舞衣が小さい頃に住んでいたマンションはその地域では豪華なマンションだったけれど、最上階の部屋の価格が違う人達でも、ちゃんと中央のエントランスを通ってエレベーターに乗っていた。
「凪さんの借りている52階のお部屋には、専用の入口とエレベーターが、正面玄関と駐車場側に2カ所独自に設けられているんですよ」
舞衣はいつの間にか凪に手を引かれ、そのタロウの言う駐車場側の独自のエレベーターに三人で乗り込んだ。エレベーターの前には小さなエントランスがあり、そこにコンシェルジュが座っている。
「あの、さっきのエントランスにいたコンシェルジュの人って、あの人も凪さん専用なんでしょうか?」
凪はさりげなく舞衣を抱き寄せる。そこにタロウがいようがお構いなしに。
「俺専用っていうよりは、52階に住んでいる人専用だな。
俺にとっては全く必要ないけどね」
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