イケメンエリート軍団の籠の中

便葉

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イケメンの狩猟本能に火が付いた?

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「ねぇ、もしかして、スーツって、その二着しか持ってないの?」


 舞衣はさすがに我慢ができなかった。皆が皆、凪さん達みたいにお金をもってるわけじゃないんだと、言ってやりたかった。でも、振り返って見えた凪の顔は、舞衣の大好きな優しい瞳をしている。


「い、今は二着しかないですけど、でも、近々、買う予定なので…」


 舞衣はそう言うと、ちょこんと頭を下げてドレッサールームへ向かって歩き出した。


「あのさ~、着替えが終わったら俺のブースまで来て、分かった?」


 舞衣はちょっとだけ後ろを振り向いた。また、あの蛇のような怖い顔をしていたら無視して走り去ろうと思っていたのに、舞衣の目に映る凪の顔はやっぱり優しい。


 舞衣は着替えを済ませると、勇気を出して凪のブースへ向かった。
 凪の部屋は雑然としていて、色々な本で埋め尽くされていた。コンピューター関連の本はもちろんのこと、株や自己啓発本や、中には少年漫画まで置いてある。


「ここに座って」


 凪はそう言うと、舞衣を自分の隣に座らせた。


「こんな感じかな?
 俺には今一つ分かんないから、適当にいいものを選んで」


「え? いいもの??」


 舞衣が凪の開いているパソコンを覗くと、女性用スーツを扱ったショップのホーム画面が映し出されている。それも、超高級ブランド店のものが…



「こ、これは?」


「俺がスーツを買ってあげる。
 このショップだったら9時半までにはここに届けてくれるから、皆が出社するまでには間に合う。
 ほら、早く選んで」


 舞衣はわけが分からなかった。
 何で凪さんが私にスーツをプレゼントしてくれるの?


「ほら、早く。
 どっちみち買うんだったら、俺が買ってやるって言ってんだろ」


「は、はい」


 舞衣は言われるがまま検索し、適当にサイズの合う一番安いスーツを見つけだした。


「これでいいです」


「安いじゃん」


「や、安くないです…
 私にとっては、めっちゃ高いです」


 凪はその画面を何回かクリックして白い紙にプリントアウトした。
 あ、値段が高いタイプになってる……
 舞衣がそう思った瞬間、凪は誰かに電話をし始めた。


「あ、鈴木さん、俺、伊東凪だけど、メンズじゃなくてレディースで大至急持ってきてもらいたい品があるんだ。
 今からラインで送るから、9時半までにはよろしく。
 あ、プレゼントだから、ちゃんと箱に入れてリボンもかけてね」


 凪はそう言って電話を切って、舞衣に注文書の紙を渡した。


「ということだから、もうちょっと待ってて」


凪は涼し気な顔で席を立ち、コーヒーのおかわりを入れに行く。舞衣も凪の後を追いかけた。


「な、凪さん、何でですか?
 そんな、私、凪さんに洋服を買ってもらうわけにはいきません。
 この分の代金は、分割になると思いますが、ちゃんと払いますので…」


 凪はコーヒーメーカーの機械の前で、舞衣に顔を近づけてこう言った。


「俺が嫌なの。
 きっと、また、映司達が舞衣ちゃん可哀想とか言って、洋服買ってあげたりするのが嫌なの。
 可愛くないって俺に言われて傷ついたんなら、じゃ、俺が納得するような可愛い女になればいい。
 俺が納得する可愛い女になりたいなら、俺の言う事を聞けばいいんだ。

 分かった? 了解?」


 舞衣は理解するのに時間がかかったが、理解してしまえば腹の立つことだらけだ。コーヒーを淹れている凪の前に立ち、凪を思いっ切り睨んだ。


「私、凪さんの事は嫌いじゃないけど、でも、凪さんの言う事を聞くっていうのには従いませんから。
 私は…」


 すると、舞衣の頭の上にすっと凪の顎の感触が走った。


「舞衣、いい匂いがする。
 朝、シャワー浴びてきたろ?

 俺、この匂い、好きだわ…」


 こうやって、大事なところで私を骨抜きにする…
 凪さんが好きって何度も何度も思わせる瞬間を、こうやって突然持ってくる…
 悔しいけど、凪さんが好き…

 でも、言う事は聞かないから……







「舞衣ちゃ~~~ん、昨日は大丈夫だった??」


「かなり酔ってた感じだったけど、なんか、今日は元気そうだね」


 10時過ぎになると、一人また一人とイケメンエリート達がで出勤してくる。


「あの、皆さん、昨日はすみませんでした。
 せっかく私のために歓迎会を開いてくれたのに、最後に皆さんをお見送りできなくて」


 映司と謙人は顔を見合わせて笑った。


「お見送りの言葉はなかったけど、マイマイの可愛い寝顔を見れたから許してあげる。
 それより、ちゃんと凪に送ってもらった?」


「は、はい。
 凪さんの寝心地のいい車で送ってもらいました」


 ジャスティンは三人の話を何気なくに聞いていたが、その舞衣の言葉につい反応してしまった。


「寝心地がいいって……
 もしかして、その車の中でも寝ちゃったの?」


 舞衣は泣きそうな顔で頷いた。
 ジャスティンは舞衣の近くに体を寄せ、小さな声で囁くように聞いた。


「凪様の機嫌は?」


 謙人も映司も舞衣の近くに集まってくる。


「じ、実は……
 きっと、私をアパートのベッドまで運んで寝かせてくれたみたいで……
 でも、私、何にも覚えてないんです」


 舞衣以外の三人は顔を合わせ、苦笑いをした。そんな中、ジャスティンは遠くに座る凪を見つめる。

 こんなタイプの女の子に凪はどう対応するんだろう…?
 めちゃくちゃ嫌いか、めちゃくちゃ好きかどっちかだな。マジで面白くなりそうだ。



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