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イケメンの保護本能をくすぐります
④
しおりを挟むジャスティンが困った顔で舞衣を見ていると、その横で凪が舞衣の肩を掴んで立ち上がらせた。
「自分で歩けるか?」
舞衣は頭はクラクラするけれど心配をかけまいと小さく頷く。
「分かったよ…
舞衣は、俺がちゃんと家まで送るから。
ジャス、もう行っていいぞ」
「お、送るって?…
私の家、結構遠いんです…
それに、凪さんに迷惑をかけるわけにはいきません」
舞衣は気丈にそう言うと、凪の腕を振り払って自分の力で歩こうとした。でも、急に動いたせいで頭がフラフラして、またソファに倒れ込んだ。
凪は堪えきれずに笑ってしまう。
なんて面白いんだ、こいつ。
「舞衣、大丈夫だから…
凪はこのビルに住んでるんだ。
だから、車もあるし、それに凪が運転するんじゃない。
凪の運転手が運転するから、舞衣も凪も車の中で寝てていいんだから」
「寝る?」
凪は舞衣のピント外れな問いに呆れながら、舞衣の腕を掴んだ。
「俺は酔っ払いを襲うほど、切羽詰まってないから。
ほら、行くぞ」
舞衣は凪に引っ張られながら、エレベーターに乗り込んだ。超高速で下に降りるエレベーターの中で何度も気分が悪くなったけれど、凪の困惑する顔を見て気合いで持ちこたえた。
「ビルの正面玄関に車をつけてもらってるから。
頼むから、吐いたりしないでくれよ」
凪は薄着の舞衣に自分のコートをかけ、肩を力強く引き寄せた。顔の色が真っ白で目の焦点が合わない舞衣が心配でしょうがない。
一回、吐かせた方がいいのかな…
一方で、舞衣は朦朧とした意識の中で、凪の男っぽい体つきにうっとりとしていた。凪に抱きしめられていると、昔、父親に抱っこされた感覚を思い出す。
大好きだったお父さん……
なんでこんなとこで思い出すんだろう……
舞衣は凪の肩にもたれていると、頭が理解できないまま超豪華な車に乗せられた。
ここは車の中? それともお部屋??
そのゆったりとした空間には、座り心地のいいクッションにブランケットまで置いてある。舞衣は車に乗った途端、急激に睡魔に襲われた。
舞衣、寝ちゃだめ…
また、凪さんを怒らせちゃう…
だめ、起きて、舞衣……
自分の意思とは関係なく、舞衣は凪の肩に寄りかかるとわずか数秒で眠りについてしまった。
凪は後部座席のゆったりとしたリクライニングシートの上で、ぷにゅぷにゅの舞衣の顔を見ていた。
また寝たし……
ま、車の中で吐かれるよりはましだけど……
凪はそう思いながら、舞衣のぷにゅぷにゅした頬を触る。ほとんど化粧は落ちているのに、舞衣の肌はきめ細やかで真っ白だ。凪は、舞衣の鼻をつまんでみた。目は開けることはないけれど、一瞬、顔を真っ赤にして水面に出てきた魚のようにふぁっと口を開けて息をする。
凪は久しぶりに声を上げて笑った。
「松村舞衣か…
面白いな、お前…」
凪はそう言うと、もっと更に舞衣を引き寄せた。
自分の周りにはほとんどいないタイプの女の子で、どう扱っていいかどう声をかけていいかも分からない。
だって、俺の好きなタイプは、全てが一流で俺より何か秀でるものを持ってる女性のはずで、こんな無防備であからさまで、何も知らなくて何もできない子なんかじゃない。
凪はもう一度舞衣を見つめた。人一倍、保護本能が強い凪にとって、舞衣の存在は危険だった。守ってあげたくてたまらない。
でも、守ってあげたいけど、扱い方が分からない。
扱い方は分からないけど、でも、こいつは俺のものだ。
凪は、久しぶりに心の底が熱くなる感覚に身を震わせた。
舞衣はいつも通りうるさくてたまらない目覚まし時計の音で目を覚ました。
あれ…?
目を開いて天井を見ながら、舞衣の心臓の音は急激に激しくなる。
ここは…? ここは、私のいつもの部屋で…
舞衣は、がばっととベッドから起き上がった。黒のベロアのワンピースを着ている自分を見て、心臓が口から飛び出しそうになる。
ま、待って…
舞衣、ちゃんと思い出して…
昨夜は、私の歓迎会で、飲みすぎて途中で寝ちゃって…
あ~~~~
まさか、凪さんが~~~
舞衣は部屋の隅にある小さなちゃぶ台の上に、何か紙切れが置いてあるのを見つけた。ドキドキしながらその紙切れを見てみると、舞衣はもうこの世の終わりだと思った。
“おはよう、酔っ払いちゃん
出社二日目、絶対遅刻はしないように
凪 ”
舞衣はショックのあまり声が出ない。でも、足はしっかり動いている。
だって、遅刻したら、本当に凪さんに嫌われてしまう。もうこれ以上、凪さんに嫌われたくない。
舞衣は凪がこのアパートを見て何を思ったのだろうと、考えれば考えるほど落ち込んでしまった。
別世界の人達…
でも、私、やっぱりこのチャンスを逃したくない、凪さんに見合う女になりたい。
舞衣はもう凪に夢中だった。
手強くてつかみどころのない相手だと分かってはいても、この胸のときめきに嘘は付けない。一日でも長く凪の近くにいたい。舞衣は、あのエリート軍団の会社で頑張るしかないと思った。
そう思ってしまったら、今日は絶対に遅刻はできない。
そして…
昨夜の私はもう忘れてしまおう…
きっと、凪さんがここに来た事も夢だったのかもしれない…
そういう事でお願いします…
応援ありがとうございます!
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