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ここは天国でしょうか?
②
しおりを挟むそこに立っていたのは、濃紺のスーツを着た品のいいイケメンコンシェルジュだった。
「この自動扉の先に、エレベーターが3基あります。
そのエレベーターが高層階専用のエレベータになりますので、27階へ上がってから、もう一度そこにいる専用受付のコンシェルジュに聞いてみて下さい」
「は、はい、ありがとうございます」
舞衣は丁寧にそのコンシェルジュにお辞儀をして、急いで高層階専用のエレベーターホールへ向かった。
さっきのエレベーターホールとは明らかに違っている。スタイリッシュさの中に上品さがあり、このフロアに出入りするエリートビジネスマンと同じようにエレベーター内にも一ランク上の上質さがあった。
そして、一緒に乗り合わせた女性だって、セレブのファッション雑誌から出てきたような洗練された美しさを醸し出している。
舞衣は、ちょっとだけポッチャリの自分の体形を残念に思った。ミラータイプのエレベーターの扉に映る自分の姿を見て、ため息をつく。
一般的なリクルートスーツの舞衣は、隣に立つエリート女子社員の格下のそのまた下に見える。
はあ…
ヤバい、だめだよ、ここに来て自信をなくしてどうするの?
舞衣、引き返しちゃ絶対だめ…
このチャンスを自分のものにするんでしょ?
舞衣は27階に着くと、その専用フロアのコンシェルジュにもう一度事情を説明した。笑顔で頷くその女性は、水色に白のラインの入った制服が素晴らしくよく似合っている。
「ソフィア社長から松村様の来社は伺っております。
この廊下の一番奥のオフィスになります。
いってらっしゃいませ」
高層階専用のコンシェルジュの美しさにまた圧倒される。
こんな事なら、もう少し明るめのスーツを着てくればよかった…
というか、本当に私って採用されたんだっけ??
舞衣はブツブツひとり言を言いながら“EARTHonCIRCLE”の入り口の前に立つ。勇気を振り絞って一歩前へ進み出たら、勝手に自動扉が開いた。
「Mai Matumura??」
舞衣がポカンとしていると、
「松村舞衣さんですか?」
金髪で青い瞳でびっくりするほどのイケメンが、舞衣にそう問いかけた。
「Yes、あ、はい…」
舞衣は一瞬でパニックになった。挙動不審の自分を抑えられない。
「Welcome to EOC」
舞衣はなんだかフワフワしたまま、その金髪イケメンに社長室まで連れて行かれた。
「ソフィア、舞衣ちゃんのお着きだよ~ん」
ソフィア??
社長を呼び捨て??
「ジャスティン、ありがとう」
社長がそう言うと、ジャスティンという金髪イケメンはその部屋から出て行った。
「舞衣、相当、動揺しているところいい?
まずは400人以上の難関を突破したことに敬意を表します。おめでとう」
「あ、はい… ありがとうございます。
よ、よかった… 本当だったんですね…
ごめんなさい、ずっと、信じられなくて……」
舞衣は相手が社長だという事さえ忘れてしまうほどに、やっぱりこの状況が今でも信じられなかった。
ソフィアは笑いながら何度も頷いて、舞衣を見ている。
「ここの支社は男ばかり20人ほどいます。
私は東京へは一か月に一回来れる程度だけど、ここの社員は超一流で超エリートだから、私が不在でも何の問題はないの。
あ、そこに、一応、IT事業の大まかな内容をまとめておいたわ。
一人一人やってる事が違うから、あなたは、ざっと覚えておけばいい」
「は、はい」
舞衣はその資料を手に取ってめくってみた。
ヤバい…… 全部英語だ…
とりあえず分かったふりをしてその資料を閉じ、ソフィアを見て微笑んだ。
「あなたはこの先一か月は、まだ仕事はしなくていいから。
英語は高校までインターナショナルスクールを出て大学は外大出身だから特に心配はしてないないけど、でも専門用語がとにかく難しいから、この一か月はそれを身につけること。
一日一時間、ジャスティンに英語を習うように。
彼はネイティブで日本語もペラペラだから、分かった?」
「は、はい」
「あと、分からない事はジャスティンに聞くことね。
彼をあなたのお世話係に任命しとくから。
じゃ、私は、今から香港まで飛ばなきゃならないの。また一か月後に会いましょう。
何か質問は?」
舞衣はとっさにソフィアに聞いてしまった。
「社長、あの、何で私が採用されたのでしょうか?」
ソフィアは軽く微笑んで、舞衣を見た。
「聞きたい?」
「はい、聞きたいです。
そうじゃなきゃ、ずっと信じられないままで毎日を過ごしそうなので」
ソフィアは悪戯っ子のように口角を上げている。
「舞衣のアンケートの回答で決めたのよ。
あなたの男性のタイプは?の答えで、イケメンは苦手です、友達にはブサイク専門と言われてますってとこ。
東京支社はイケメンが割と揃ってて、そういう事が目当てで入ってこられるのもちょっとと思ってたから、舞衣の答えは私の中にスッと入ってきたってわけ。
あ、でも、別に職場恋愛は自由だから。
逆にあの変人達の誰かとあなたがつき合うようになったら、もうハグしてあげる」
舞衣はソフィアの早口の会話に半分もついていけなかった。
でも、ブサ専が採用理由だなんて…
「ジャスティン、私はもう行かなきゃ。
舞衣のお世話、よろしくね」
ソフィアは電話でジャスティンにそう言うと、舞衣に軽くハグをしてこう言った。
「私はあなたを気に入ってるわ。
あなたのほっこり感で、この男だらけの砂漠を癒してあげて」
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