君の中で世界は廻る

便葉

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みぞれの頃 …9

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その日の夜は、きゆと流人はきゆの実家で夕食を取り、その後、流人の自宅へ向かった。
久しぶりにこの家へ入った二人は、リビングに飾れているクリスマスツリーに驚いた。


「なんかすごい豪華…」


きゆがそう呟いてしまうほどに、そのツリーはきゆの背と同じくらいに大きく装飾品も色鮮やかでバランスよくギッシリと飾られている。


「俺だけのためにしては本当に大き過ぎるよな。
俺にはきゆみたいな彼女がいるからいいけどさ、本当に独り者で彼女もいない奴だったら、なんか、毎日これ見て凹みそう」


二人はソファに座り目の前にあるツリーを見ながら、シャンパンで乾杯した。
今日、きゆは流人の家に泊まる事になっている。
きゆの両親がそうすすめてくれた。


「流ちゃん、私からのクリスマスプレゼント…」


きゆはきれいにラッピングした小さな箱を流人に渡した。


「何だろう?」


「流ちゃんはもう何でも持ってるから、プレゼントするものが全然思い浮かばなくて、でも、こうやってこの島で生活している事をいつか思い出してほしいなって考えて、これにしたの」


流人が箱を開けてみると、そこにはシルバーの鎖のついた小さな透明の小瓶が見えた。
流人はそれを手に取り指にぶら下げてじっくり見てみる。


「その小瓶の中の砂をよく見てみて」


流人は目を細めてジッと見たが、ただの白い砂にしか見えない。


「何だろう…?
ごめん、きゆ、全然分からない」


きゆはその小瓶を流人から預かり、軽く振って見せた。


「昔、この島のある海岸では、星の砂がたまに取れたりしたの。
今はもう見れなくなっちゃったけど、私が子供の頃はまだかろうじて取れる場所があって、目の細かいざるを持って家族でよく海に行った。

1㎏の砂にあって一粒か二粒…
私はこの星の砂を集めるのが大好きで、いつも父につき合ってもらって海にへ行って、ざるを振るのに一日かけても構わない変わった子だったんだ」


流人は目を凝らしてもう一度その瓶の中を覗きこむと、丸い砂粒の中に混ざって星形の白い砂粒が何個か入っているのが見えた。


「本当だ、星形の砂を見つけた」


流人は初めて目にする星の砂に目を奪われている。


「でも、これは、きゆの宝物なんじゃないの?
これだけの星の砂を見つけるのに、どれだけの時間を費やしたんだ?」


「こういう田舎に住んでればたくさんの時間がある。
特に子供の頃なんて、休みになっても映画館があるわけでもないし遊園地があるわけでもなくて、でも、こうやって美しい自然が周りにたくさんあった。

こんな事をして楽しんでたの…
だから、どれくらいの時間をって言われても分からない。
好きでやってた事だから」


流人はまだその小瓶を見ている。
幼いきゆの姿を思い浮かべながら…


「でも、こんな貴重な物を俺がもらっていいの?」


「流ちゃんだからあげたいの…
この島を愛してくれて、それだけで私は本当に嬉しいんだから」


流人は小さく頷き、そのチェーンを外し自分の首に回してつけた。


「一生、大事にするよ。
きゆを一生大事にするのと同じように…

永遠に……」


流人は星の砂の入った小瓶を胸元で優しく握りしめ、そしてきゆの方を見て微笑んだ。


「今度は俺からのプレゼントだな」


ソファに座ってシャンパンを味わっていたきゆは、驚いて流人を見る。


「え~、クリスマスはもういいからねって言ったのに?」


「誕生日は誕生日、クリスマスはクリスマス、そこはちゃんと区別をつけなきゃ」


流人はでも少しだけ躊躇していた。
きゆの反応次第で、心がぽきっと折れてしまうかもしれない。
でも、急ぎ過ぎだとか焦り過ぎだとかそんな風に言われたとしても、流人には全く関係ない。
人の意見で左右されるような、そんな人間じゃないから。
でも、きゆの反応は別だ。


「はい、これ…」


流人はきゆに封筒を渡した。
きゆは渡された封筒が、役場の封筒だということに目を丸くした。
いつの間にか隣に座っている流人が、ウキウキなのかドキドキなのかよく分からない表情できゆを見ている。
きゆは封筒の中から一枚の紙切れを取り出した。


「流ちゃん…… これって……」


流人の目から見えるきゆは、決して喜んだ顔はしていない。
きゆの困惑の中に垣間見える憧れの眼差しに、まだ流人を気付いていなかった。

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