本物でよければ紹介します

便葉

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その手の人

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「何々?」
 

 織田が何やら察知してて、小声で聞いてくる。

「もしかして、約束があった?」
「……あー……ていうか、聞いてたけど、日時とか入れといてって言ったきり、忘れてたっていう話」
「そうなんだ。今日だったの?」
「ん」

「そっか……じゃあ高瀬、そっちに行っても、いいよ?」
「え?」

 織田はクスッと笑って、電話には聞こえないように。

「オレは、明日ゆっくり高瀬と美味しいもの食べにいければ、全然。先に帰ってるよ?」

 織田は、ほんとに良いよと思ってそうだが。
 そんな訳にはいかない。

「いいよ、別にまたすぐ会うだろうし」
「いつぶりなの?」

「二、三か月位……?」

 そう言うと、織田は、んーと考えた後。

「いいよ、ほんとに。家で待ってるから」

 何だか本当に先に帰ってしまいそうな。
 全然嫌そうでないのが織田のすごいとこだと思うんだけれど。

「織田、一緒に行く? 嫌じゃなければ」
「え?」

「一緒に来れば? って言ってるんだけど」
「ん? オレが一緒に行くの? 高瀬の友達のところに?」
「……ちょっと待って」

 さすがに織田もちょっと不思議そうなので、オレは、もう一度スマホを耳に当てた。

「誠ー、ほんとに一緒で良い訳?」
『ん? ああ、良いって言ってんじゃん。前に佐藤の彼女とかもついてきたことあったろ』
「……ああ。そういや、そんなこともあったけど……」

 ちら、と織田を見つめると。ん? にっこり笑う織田。

「……来て良いって言ってんだけど……どうする?」
「えーと……良いなら行くけど」

 けろっとしてそう言って笑う織田に、ああ、そういうタイプだっけな、と苦笑い。
 一瞬、大丈夫か聞こうと思ったけれど、これは大丈夫だなと、判断した。

「……じゃあ連れてく。店は?」
『地図とかも入れてある。待ってるからー』
「了解」

 電話を切って、場所を確認する。

「近い?」
「ん、電車乗って十五分位」
「そっか。行こ行こ」

 織田がオレを見上げてにっこり笑う。

「ほんとにいいのか?」
「え? いいよ。だって、オレも高瀬の学生時代のこと知りたいし」
「……いい話じゃないかもよ?」
「そう? でも別に。だって、なんとなく知ってるような気がするし」

 歩き始めながら、そんな話をしていると、織田がそう言って笑った。

「クールな感じでモテモテだったんでしょ?」
「――――……」

「なんとなく分かるから、平気。どんだけカッコよかったか、聞きたいだけだから。聞けると思うし」

 絶対本気なんだろうなと思う表情で、そんなことを言って笑うから。
 オレまで、笑ってしまう。

「高瀬がモテるのなんか知ってるし、学生時代とかに、誰とどれだけ付き合ってたって平気。……ていうか、オレも結構モテたし」

 悪戯っぽく笑う織田に、そうだろうな、と返すと。

「……そこ、つっこんでくれないと、恥ずかしい」
「え、何で? 織田は、モテたと思うけど?」

「オレより百倍モテてそうな高瀬に言われると、余計恥ずいです……」


 困った顔をしているのが可笑しくて、くしゃ、と髪をなでると。
 ますます照れてるし。

 どうしてこんなに可愛く生きてこれるのか、謎。
 なんて。また思ってしまった。




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