ココロオドル蝶々が舞う

便葉

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裸族の蝶々に未だ慣れません

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 蝶々は小さくため息をついた。でも、別に驚いたり嘆いたりはしない。だって、蝶々は、最近の藤堂のミジンコぶりを受け入れていたから。
 藤堂は蝶々の事が絡むと、ゴッドでもカリスマでもなくなる。藤堂のミジンコぶりは目に余るほどで、その様子は漫画のネタになりそうなほど情けない。だから今回の事も別に驚いたりしない。それ以上にミジンコ藤堂と小泉の会話の方が気になった。


「小泉さんは何て言ってました?」


 蝶々は反省している藤堂の手をさすりながら、そう聞いた。


「あいつは面倒くさい奴だよ…
 だから何ですか?って聞いてきやがった。
 だから俺は、必要以上に蝶々に近づくなって言ったんだ。
 今夜、変なワインを飲ませれたのなら、お前は用心しないと破滅の道へまっしぐらだぞって。
 奥さんと離婚したくなければ、俺の忠告をちゃんと受け入れろって」


 蝶々はワクワクしながらその話を聞いている。


「そしたら? 小泉さんは?」


 藤堂は戦で勝利した武将のような笑みを浮かべ、したり顔でこう言った。


「血相変えて帰って行ったよ…
 なあ、蝶々…
 お前、もしかして、ワインかなんか飲ませたか?」


 蝶々はウキウキした顔で大きく頷いた。


「蝶々特製のワインを少しほど」


 藤堂は蝶々をまた力いっぱい抱きしめた。そして、クスクス笑う蝶々にキスをする。


「うん、このキスの味は、媚薬入りのワインだな」


 藤堂は楽しそうに笑う蝶々を抱きしめながら、この先を思い大きくため息をついた。




 小泉のイライラは止む事はなかった。それはもちろん藤堂に対してであり、そして自分自身にもだ。
 
……藤堂さんは次期編集長と言われているほどのやり手で、それでいてイケメンで、そんな藤堂さんと蝶々さんが付き合ってる? 世の中は不公平としか思えない。というか、何で俺はこんなにも失恋の気分を味わっているのだろう…

 確かに、蝶々さんの家でワインをもらい、ほんの少しの世間話がすごく楽しかった。
 髪が艶やかで、肌は真っ白で、大きな瞳に整った鼻、それなのに、口から出てくる言葉は血まみれな何かを連想してしまいそうな薄気味悪い単語が並ぶ。

 でも、そのギャップがたまらない…
 薄気味悪い言葉に隠れて、たまに可愛らしい女の子が顔を出すわけだから。
 俺は蝶々さんの家を出た時点では、恥ずかしながら蝶々さんの虜になっていた。
 でも、藤堂さんと会い二人の関係を聞かされ、少しだけ目が覚めた。

 小泉は帰りの電車に揺られながら、まんまと藤堂の罠に嵌まってしまう自分が悔しかった。でも、だからといって、これ以上、蝶々へ深入りするわけにはいかない。
 小泉は結婚をしている自分を呪った。もし、自分が独身であれば、正々堂々と藤堂に決闘を申し込んだに違いない。
 小泉は大きくため息をつくと、蝶々のワインに神経を冒されたのか深い眠りに落ちていった。




 次の日の夜、藤堂は蝶々の好きな店のお好み焼きを買って、蝶々宅を訪れた。もう夜の八時を回っているから、蝶々はきっとお腹を空かせているはずだ。藤堂はそんな優しい自分に酔いしれながら、蝶々からもらった合鍵を使って中へ入った。


「ちょ、蝶々…」


 藤堂は持っていたお好み焼きを落としてしまった。藤堂の視線の先に、真っ白で柔らかい曲線美の全裸の蝶々がいる。その美しい全裸は、小さなテーブルを覆い隠すように必死に漫画を描いていた。
 蝶々は藤堂の気配を察し、こちらに振り返りいらっしゃいと言った。

 藤堂は玄関に立ち尽くしたままだ。藤堂のありとあらゆる神経が蝶々の全裸に反応し、残念なほどに興奮している。

……俺はこんなに性欲が強かったか? いや、俺だけじゃないよな…? きっと、世の中の男は、蝶々の全裸を目の前にしたら誰だって興奮し蝶々を抱きたくなるに違いない。


「藤堂さん、どうしたんですか?
 あ、美味しそうな匂いがする」


 蝶々はそう言うと、急に立ち上がり藤堂の方を見た。一糸まとわぬ恰好で藤堂の方へ歩いて来る蝶々を、藤堂は直視できない。いや、直視できないと言いながら、ゆさゆさと揺れる大きな胸に目は釘付けだった。


「お好み焼き、買ってきてくれたんですね~」



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