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この蝶々は勇敢に空をも飛ぶ
⑥
しおりを挟む藤堂は金曜日も中々蝶々と話し合う時間を作れずにいた。自分が担当している漫画家がアシスタントともめてそのアシスタントが全員辞めたいと言ってきたり、近々発売する40周年記念の特別号も気がつけば藤堂がほとんどを取りまとめる状態になっている。
「蝶々、今日じゃなきゃダメか?」
隣のデスクに座ってパソコンを打っている蝶々に、そう聞いてみた。
「はい、今日がいいです」
藤堂は蝶々の横顔を見つめながらメモに走り書きをして、蝶々の前に投げた。
“八時頃なら時間が空くけど、それでいい?
会社はもう遅いからこの先のいつも居酒屋で待ってて”
蝶々は藤堂の方を見てコクンと頷いた。
藤堂は本当は自分の家に呼びたかったが、心を鬼にしてそれはやめた。また裸になられても困る。蝶々にとっては普通の事なのかもしれないが、藤堂にとっては永遠に普通の事にはなれないだろう。
でも、裸族の蝶々は好きだ。エロとかスケベとか何を言われても構わない。
蝶々の裸は世界中の何よりも美しい……
藤堂は待ち合わせの時間より三十分程遅れてしまった。蝶々は個室の部屋を取りそこで漫画を読んでいた。
「蝶々、悪い、遅くなった」
藤堂がそう言うと蝶々は笑顔で首を横に振り、持っている単行本を藤堂に見せた。
「冬彦先生の新刊買ってきました~~
もう面白くて一気読みですよ。冬彦先生はお元気でしたか?」
藤堂はがっくりとうなだれた。
「冬彦先生VSアシスタントの戦いにはついていけない。
アシスタントが全員辞めてみろ?
二本も連載抱えてんのに一人でできるわけないんだ。それを先生は分かってない」
蝶々は突然、素晴らしいアイディアを思いついた。
「藤堂さん、期間限定で後藤先生を冬彦先生のアシさんで使うのはどうでしょう?
後藤先生のお勉強にもなるし、お互い癖がある性格だからぶつかることもそうないと思うんです。冬彦先生の世界観は後藤先生に通ずるものが絶対にあります」
藤堂はなるほどと思いながら蝶々の提案を考えてみた。
「そうだな、いいかもしれないな。次のアシさんが決まるまでそうしてみようか?」
藤堂は自分の悩みの一つを解決してくれた蝶々とハイタッチをした。そして、藤堂は気持ちよくビールを一気に飲み干した。
「よし、じゃ、次は、蝶々のレポートの感想を言わせてもらう」
「は、はい」
蝶々は持っていたワイングラスをテーブルに置き、真剣に藤堂を見る。
「はっきり言うと、あんな事は絶対に起こり得ない。漫画としては最高の出来だけど、実際に起こるのかと言われればあり得ないだろ?」
「確かにあれは少しだけ誇張して描いてあるところが多いですが、でも人間同士が真剣でぶつかり合う時は何が起こるか分からないと思うんです。
そんなことを言うのなら、藤堂さんの対処法を考えてレポートにまとめろっていう課題だっておかしいです。そんな論理的で計算された話し合いなんて、相手に真意が伝わるわけないじゃないですか」
藤堂はもう一杯ビールを一気に飲み干した。
「そんなの分かってるよ。俺が無理難題を押し付けて蝶々にレポートを提出って言ったのは、お前にブレーキをかけるためだ。俺なりに西園寺順也がどういう人間か調べてみた。
二代目で倒産しかけた病院をまた立て直した、かなりのやり手だ。三代目で安定繁栄の病院にまた戻った。政財界や経済界全てにコネクションを持ち、裏を返せば、それだけの強力な地位と権力を持っている」
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