ココロオドル蝶々が舞う

この蝶々は蛾にも変身します

⑪

　藤堂は後藤の心情を思えば可哀想にもなった。
　きっと、医者になるレールが敷いてあって、でも漫画が描きたい、その狭間で葛藤していたんだろう。でも、そういう人間は山ほどいる。嫌な事と正面で向き合ってそれを乗り越えて、そして明るい未来が華開く。


「藤堂さん、日曜日、私、後藤先生と会ってもいいですか？
　実はその日の午後はバイトがないらしくて、外でのデッサンを一緒にどうですか？って誘われてるんです。
　その時に、何で家出をしたのかとか、ご両親との関係とかを聞き出せないかなと思って」


　蝶々はとりあえず藤堂にお伺いを立てているが、行く気満々ぶりが見てとれる。


「蝶々、あともう一つ……
　後藤は職場で度々トラブルを起こすって言ったろ？
　どうやらストレスにかなり弱くて、ちょっとでも注意されたり上手く事が運ばなくなったりしたら逆切れするらしい。物を投げつけたり、倒したり、結構暴れるみたいなんだ」


　そんな話を聞いても、蝶々はあっけらかんとしていた。自分は大丈夫みたいな顔をして。


「藤堂さん、ダメですか？」


　蝶々はすがるような目で藤堂を見た。


「すごいナイーブな話だ。家出をするくらいだから、人に触れてほしくないって思ってるかもしれない」


「分かってます」


「会社がこれだけ秘密にして動いてるのに、もしお前がなんかしでかしたら？」


　藤堂はそう考えただけで身震いがした。


「大丈夫ですって。だってこの間、私達に家出の話をしてくれたわけだから、その話になっても自然な流れです」


「いや、でも……」


　藤堂はこの大切な話を、容易に蝶々に話したことを後悔していた。


「藤堂さん、私と藤堂さんが後藤先生を守らなくて誰が守るんですか？
　私は担当としてだけではなく友達としても、後藤先生を守りたいんです。彼の作品を世に出してあげたい。
　私に任せてください。お父様達と仲直りさせますから」


　藤堂は隣に座る蝶々の情熱で火傷しそうなほどだ。きっと反対すれば逆に何をしでかすか分からない。


「じゃ、条件を出す。そのデッサンとやらに俺も同行する。
　大丈夫、後藤には気づかれないように変装して付いてくるから」


　蝶々はたまにゴッドの考えが幼稚園児レベルだと思ってしまうことがある。

……やっぱりゴッドはミジンコなのかもしれない。