14 / 72
この蝶々は蛾にも変身します
④
しおりを挟む蝶々は後藤の家でお好み焼きを食べていた。
「蝶々さん、今日は藤堂さん来ないんですね?」
蝶々は熱々のお好み焼きを頬張りながら、大きく頷いた。
「きっと私の事が心配なんだけど、それでも成長のために放って置いてくれてるんだと思うの」
ここ最近、蝶々は後藤に対して敬語を使うのをやめた。それも、実は、藤堂との約束の一つだった。
“蝶々の方が年上なんだから敬語はやめろ。
編集者が舐められちゃ仕事ができないからな”
蝶々にとって藤堂は面倒くさい存在になってはいるものの、尊敬する気持ちは何も変わっていない。だから、藤堂と約束した事はしっかりと守っている。
「あ、この間の後藤先生のネーム、早速読みました。もう、三つとも素晴らしくて、どれか一つ選ぶのって本当に難しい。後藤先生の頭の中を覗いて見たいくらい。きっと、たくさんのアイディアが湯水のように湧き出てるんだろうな」
蝶々はお好み焼きの肉だけを探して、ふっくらと膨らんだお好み焼きを解体し始める。
「私の脳みそもこんな風に突いたら、肉の形をしたアイディアが出てくるかしら」
後藤は蝶々の言葉のチョイスに思いっきり笑ってしまった。
「蝶々さんの頭の中って、本当にグロくてホラーなんですね」
蝶々は自分の事を理解してもらったような気になっていた。だって、このグロテスクな表現方法は、いつでも蝶々のやることなす事の邪魔をしていたから。
「今度、蝶々さんの漫画を見せて下さい」
蝶々は後藤の言葉にお好み焼きをつつく手を止めた。
「い、いいの??」
「はい、いいです。僕も蝶々さんの頭の中を覗いてみたいですもん」
蝶々は、一瞬、藤堂の顔を思い出した。
……この案件は報告しなきゃダメ? ううん、必要ないよね?
「じゃあ、今度、渾身の作品を持ってきます!」
蝶々は息が止まるくらいに嬉しかった。
自分の部屋のクローゼットの奥の方にしまい込んでいる大切な宝物…
たくさんのネームに原稿、使い古した大切な道具達…
出版会社に就職して真剣に漫画に取り組むことをやめてから、二年近くの年月が経っている。
……後藤先生が見てくれる。
蝶々は溢れ出す喜びに胸が高鳴った。蝶々は、藤堂が言うほど後藤心の事を警戒していない。見た目は決して好青年とは言えないが、誰かに危害を及ぼすような危うさは一切感じないし、部屋の中も清潔で着ている物もちゃんと洗濯している。ただ奥手で人見知りで表情が暗いだけだ。でもよくよく見てみると、鼻は高く奥二重の綺麗な切れ長の目をしていた。
「後藤先生のネームを、明日、藤堂さんと一緒に三つの中から一つに絞らせてもらいます。それから原稿に入っていく形となるので、よろしくね」
「……はい」
後藤ははにかんで返事をした。
「蝶々さんも、明日、自分の原稿を持って来てくださいね…」
蝶々はいつものほっこり笑顔で小さく頷いた。
蝶々は慌てて後藤のアパートの狭い階段を下り、小さなドアを開けて外へ飛び出した。そして、すぐにスマホを出して藤堂に電話をする。
「藤堂さん、今から駅に向かいます」
「…………知ってる」
「え?」
蝶々が驚いて道の先に目をやると、駅へ向かう曲がり角の自販機の横に藤堂が立っていた。それも、蝶々の忘れたベレー帽を手に持ち、気まずそうな顔をして……
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメンエリート軍団??何ですかそれ??【イケメンエリートシリーズ第二弾】
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
そのイケメンエリート軍団の異色男子
ジャスティン・レスターの意外なお話
矢代木の実(23歳)
借金地獄の元カレから身をひそめるため
友達の家に居候のはずが友達に彼氏ができ
今はネットカフェを放浪中
「もしかして、君って、家出少女??」
ある日、ビルの駐車場をうろついてたら
金髪のイケメンの外人さんに
声をかけられました
「寝るとこないないなら、俺ん家に来る?
あ、俺は、ここの27階で働いてる
ジャスティンって言うんだ」
「………あ、でも」
「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は…
女の子には興味はないから」
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
古屋さんバイト辞めるって
四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。
読んでくださりありがとうございました。
「古屋さんバイト辞めるって」
おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。
学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。
バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……
こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか?
表紙の画像はフリー素材サイトの
https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる