上 下
42 / 48
He is 私のもの??

しおりを挟む


 木の実はご馳走を全部平らげた後に、何とも言えない切ない気持ちに浸っていた。
お腹が空き過ぎてジャスティンの前で倒れてしまった事で、また二人の距離が急接近した。 
 あの時、私が言い出した会わないで考えたいという約束は、今となってはシャボン玉のようにプカプカと行き場をなくして浮いている。 

 ジャスティンに惹かれている自分の気持ちに蓋をして、ジャスティンの過去の事ばかりに囚われていた。 
 実際、私の知らないジャスティンの過去はジャスティンのものであって、私のものではない。 ここに一緒にいる今が何よりも大切であって、きっと、その中に答えが隠れている。

「今日、謙人と会ったろ…?」

 ジャスティンは木の実が食事を終えるのを待って、その事を切り出した。 
 木の実が気を失って倒れた時は、もう謙人の事なんかどうでもいいと思った。だけど、今、こうやって満足な顔で元気になった木の実を前にすると、沸々とあの疑問が頭の中に沸いてくる。 
 自分の小ささにげんなりするけれど、でも、頭の中の嫉妬の炎は消す事ができなかった。

「謙人さん? 
 え? 謙人さんにそう聞いたの…?」

「いや、モナンジュのかすみ草の花束が俺の机の上に置いてあった。 
 他の奴に聞いたら、謙人が置いたって」

 木の実は驚きながら、でも、笑ってしまった。

「あの花束、ジャスティンへのプレゼントだったの…?」

「知らないよ、全く嬉しくないんだけど」

 ジャスティンはワインを持って木の実の隣に移動した。木の実の座る場所から最高に綺麗な夜景が一望できる、それだけの理由で。

「ねえ、ジャスティン、そのかすみ草の花束事件を教えてほしい。 
 モナンジュの人に聞いても、あの時は大変だったのよ~とか、そんな事しか教えてくれないの。 
 今日だって、謙人さんがかすみ草って言っただけで、オーナー夫妻も水田さんも顔が真っ青になったんだから」

 ジャスティンは木の実のその話を聞いてモナンジュのスタッフが気の毒なのと、その反応がコントのようで笑ってしまった。

「じゃ、俺がその話を教えるから、木の実は謙人と何を話したか教えてね」

 木の実は謙人と話した内容を、詳しくジャスティンに伝えるつもりはなかった。今は、謙人の思いをジャスティンは知らない方がいい。 
 あ、でも、謝っててほしいって言ってたっけ。その事をちゃんと伝えればいいよね、うん。

「分かった…」

 木の実のその返事を確認すると、ジャスティンは凪と舞衣のロマンスの話をざっとしてから、本題のかすみ草の巨大花束事件の話をした。 
 モナンジュの人達が今でも顔が真っ青になるのは、あの時、金額分のかすみ草を調達するのに相当走り回ったからだと話したら、木の実は顔を真っ赤にして笑っている。

「なんで、その凪さんっていう人は、脇役のかすみ草を主役にそれも花束の全部にしたんだろう…?」

 ジャスティンは木の実を連れて、ベランダに置いているソファに腰を下ろした。

「舞衣にぞっこん過ぎて、頭がおかしくなってたのさ。 
 本人もあの巨大ボールになった花束を見て、腰を抜かしてたよ。
 ま、一番迷惑を被ったのは、世間知らずの凪のために花束を請け負った俺と、それを頼まれたモナンジュの人達ってわけ」

 ジャスティンは記念に撮っておいたその巨大花束の写真をスマホの中から探し出し、木の実に見せた。 
 木の実はクッションに顔を当てて大笑いをする。お腹がいたいと、涙を流しながら…




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

御曹司とお試し結婚 〜3ヶ月後に離婚します!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
御曹司とお試し結婚 〜3ヶ月後に離婚します!!〜

モテ男とデキ女の奥手な恋

松丹子
恋愛
 来るもの拒まず去るもの追わずなモテ男、神崎政人。  学歴、仕事共に、エリート過ぎることに悩む同期、橘彩乃。  ただの同期として接していた二人は、ある日を境に接近していくが、互いに近づく勇気がないまま、関係をこじらせていく。  そんなじれじれな話です。 *学歴についての偏った見解が出てきますので、ご了承の上ご覧ください。(1/23追記) *エセ関西弁とエセ博多弁が出てきます。 *拙著『神崎くんは残念なイケメン』の登場人物が出てきますが、単体で読めます。  ただし、こちらの方が後の話になるため、前著のネタバレを含みます。 *作品に出てくる団体は実在の団体と関係ありません。 関連作品(どれも政人が出ます。時系列順。カッコ内主役) 『期待外れな吉田さん、自由人な前田くん』(隼人友人、サリー) 『初恋旅行に出かけます』(山口ヒカル) 『物狂ほしや色と情』(名取葉子) 『さくやこの』(江原あきら) 『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!』(阿久津)

苺の誘惑 ~御曹司副社長の甘い計略~

泉南佳那
恋愛
来栖エリカ26歳✖️芹澤宗太27歳 売れないタレントのエリカのもとに 破格のギャラの依頼が…… ちょっと怪しげな黒の高級国産車に乗せられて ついた先は、巷で話題のニュースポット サニーヒルズビレッジ! そこでエリカを待ちうけていたのは 極上イケメン御曹司の副社長。 彼からの依頼はなんと『偽装恋人』! そして、これから2カ月あまり サニーヒルズレジデンスの彼の家で ルームシェアをしてほしいというものだった! 一緒に暮らすうちに、エリカは本気で彼に恋をしてしまい とうとう苦しい胸の内を告げることに…… *** ラグジュアリーな再開発都市を舞台に繰り広げられる 御曹司と売れないタレントの恋 はたして、その結末は⁉︎

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

処理中です...