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He is 私のもの??
①
しおりを挟むジャスティンはダメな事と分かっていながら、モナンジュの店の近くに立っている。
本当は、木の実の引っ越しが終わるまでは会わないようにと思っていた。 でも、今日、謙人と木の実が会ったという事実は、ジャスティンの自制心を崩壊させた。
偶然に会ったふりをすればいい、俺の演技力がクオリティが高ければの話だけど…
「お疲れ様、明日は頑張るのよ~」
木の実の姿とともに奥の方からそんな声がした。 ジャスティンはいつものお団子ヘアの木の実を見ると、胸が詰まってくる。
木の実の存在は本当に凄い……
物を言わずとも俺の感情を簡単に揺さぶるし、きっと操ることだってできるはず。
木の実は虹色のスーツケースをゴロゴロ転がしている。
え、今から泊まる所を探すのか…?
木の実は少ないお金を浮かすためにこの場所からは少し離れているけれど、値段の安いネットカフェへ向かっている。
昨日も一昨日も、夕食は食べていない。朝食はネットカフェに常備しているロールパンとコーヒーを、お昼はコンビニで買ったおにぎりと野菜ジュースを、その2食でどうにかこうにかしのいでいた。仕事には支障をきたさないよう気合で頑張っていたけれど、さすがにしんどい。
木の実は地下鉄の階段を下る前に小さくため息ついた。そして、パンパンに膨らんでいるスーツケースを持ち上げる。
あれ…?
スーツケースは引力に逆らうようにフワッと宙に浮いた。 木の実が振り返ると、後ろにジャスティンが立っている。木の実のスーツケースを当たり前のように持ち上げながら。
「ぐ、偶然だよ、偶然…」
木の実はこのわざとらしい偶然の出会いに、ちょっとだけ笑って泣いてしまった。
「ジャスティン……」
木の実はこの偶然の再会が、本物でも作られたものでもどちらでも構わなかった。
ジャスティンは、いつも、私がしんどい時に、頑張っている糸がプツリと切れそうな時に、必ず私を見つけてくれる。
木の実は自分から会わないって言ったくせに、こんなに根性無しで意気地のない自分にほとほと嫌気がさした。
「べ、別に、後をつけてきたわけじゃないからな…」
木の実はクスッと笑った。
「そんな事、誰も言ってないよ」
「あ、そうだっけ…」
ジャスティンはやっと木の実の顔をちゃんと見れた。
え? 何だか痩せた気がする。
「ねえ、ちゃんとご飯食べてる?」
木の実はジャスティンにスーツケースを持たせたまま、トコトコと階段を下り出した。 ご飯を食べてないは、イコールでお金がない事に結びつく。
ジャスティンの大切な秘密は聞いておいて、未だに貧乏な自分は知られたくなかった。
「これはどうするの?」
木の実はまだ階段の上にいるジャスティンを見上げて、ポカンとした顔をする。
え? スーツケースを持って一緒に下りてくれるんじゃないんだ…
「俺は電車には乗りたくないから、このスーツケースは車で届けてやるよ。 どこまで行けばいいの?」
ジャスティンは、木の実が慌てて階段を上って来る姿を面白がって見ていた。 まるでコントを見てるようだ。
木の実は体力が落ちている自分を改めて感じていた。階段を駆け上る足に力が入らない。
あれ…?
ジャスティンが歪んで見える…
木の実はジャスティンを目の前にして膝から崩れ落ちた。
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