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He is 完全無欠??
④
しおりを挟む月曜日の朝、木の実はいつもの時間より一時間早く出勤した。 水田さんが子供の参観日で午前中に休みを取っているため、その時間を補うためだ。
木の実にとっても好都合だった。頭をすっきりさせるためにも、働いて忙しくしていたい。
ジャスティンへの答えを見つけるだけの自分の頭の中を一掃したかった。
お昼の12時になると、水田さんが出勤してきた。
「木の実ちゃん、木の実ちゃんのタイミングでお昼に行っていいからね~」
奥の方からオーナーの声がした。
「は~い、了解しました」
木の実は更衣室でエプロンだけを外し、コンビ二におにぎりを買いに行こうとした。水田さんに何か買い物があればついでに買ってきますよなんて話していると、入口をちらちら覗いている男性が目に入る。
水田さんが接客に行くと、その男性は店の中に入って来た。 あまりのイケメンぶりに水田さんは顔が赤くなっている。
木の実はその男性に見覚えがあった。
「あ、いた」
そのイケメンは木の実を指さしてそう言うと、木の実を見て照れくさそうに笑っている。
「け、謙人さんですよね…?」
奥の方からオーナー夫妻も顔を出す。今、入って来た二人組の女性のお客様も、謙人を見て息を飲んでいる。
「ちょっと話がしたいんだけど、いいかな…?」
その店にいる全員は一斉に木の実を見た。 都市伝説化しているイケメンエリート軍団のメンバーが、何で何度もこの店に木の実を尋ねて訪れるのか?
皆が木の実に目で合図をする。
早く行きなさいと…
謙人は突然何か思い出したように、店に置いている花達を見て回る。首を傾げながら、何かを探しているようだ。
すかさず、奥様が声をかける。
「何か、お探しですか?」
「あ、あのふんわりした小さな花で、花束にしたら丸くなる白色の…」
「かすみ草でしょうか…?」
奥の方からオーナーが一束のかすみ草を持ってきた。
「あ、はい、これです。
これを貰えますか?」
水田さんとオーナー夫妻は、何だか困惑気味に顔を見合わせる。
「あ、いや、その一束でいいです。
せっかく店に来たので、何か買って行こうと思って…
あ~、あの時みたいに、馬鹿みたいな量は買いませんから」
オーナー夫妻と水田さんはホッとした顔をした。
え? 一体何があったんだろう…?
オーナーはすぐさまラッピングを始めた。真っ白いかすみ草が映えるように濃紺の和紙を選び、あっという間に爽やか系のかすみ草の花束が出来上がった。
謙人はカードで支払いを済ませると、紙袋に入った花束を恥ずかしそうに受け取った。
「ありがとうございます…
あ、それと、木の実さんを10分ほど借りますね」
謙人はそう言うと軽く一礼をして、店を先に出る。
「あ、じゃ、ちょっと行ってきます」
木の実がそう言って振り返ると、水田さんもオーナー夫妻も、そしてお客様も、目をとろんとさせて外を見ている。
イケメンエリート軍団の人間があんなに謙虚で慎ましかったら、そのギャップにほとんどの女性はメロメロになる。
謙人は、きっと、そういう魅力の持ち主だった。
木の実が謙人の後を追って外に出ると、謙人はモナンジュの隣にある小さなカフェに入っていた。 木の実を見つけると、笑顔で手を振って手招きをする。
奥の二人掛けの丸テーブルに座っている謙人は、もうすでに二つのアイスコーヒーを手に持っていた。
「食事とかできればいいんだけど、この後用事が入ってて…
ごめんね、コーヒーでいい?」
木の実は頷く事しかできない。
謙人の頬にできる縦えくぼやメガネの奥に見える大きな切れ長の目は、ジャスティンに夢中な木の実までもドキッとさせた。
「あの、土曜日の夜の事を謝りに来たんだ…
調子に乗って色んな事を言っちゃって…」
「あ、はい…」
木の実は何も言えなかった。確かに、謙人の言葉は、木の実の心に今でも根付いている。
「あの後、シュウに説教されたよ…
木の実ちゃんは俺らの周りにいる女の子とは違うんだってね。
ゲイだとか、バイだとか、そんな話を普通にできる子じゃないって」
木の実は泣きそうになった。ゲイとかバイとか、何度聞いても耳も頭も慣れてくれない。
「ジャスティンとは?
どうなった?」
木の実は何も言えないし、言いたくなかった。 二人の大切な問題を、人にベラベラ話す気にはなれない。
「ごめんね…
今日は謝りたいのと、それと、一つだけ木の実ちゃんに分かってもらいたい事があって…」
謙人はアイスコーヒーを飲み干した。
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