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He is コイビト??
⑥
しおりを挟む「同じ職場って…?
もしかして、イケメンエリート軍団の人ですか?」
謙人は木の実のあどけない表情に、思わず笑ってしまった。
「イケメンエリート軍団って…
そんな風に俺達呼ばれてんの?」
謙人は隣で心配そうに見ているジャスティンと目を合わせると、今度は大声で笑った。
「ねえ、そのネーミングって、ダサくない?
イケメンに、エリートに、軍団って…
超ダサい三大言葉をくっつけちゃダメだよ」
木の実は大きな口を開けて笑う謙人を見ながら、この人はやっぱりモテるだろうなとしみじみ思った。
「ねえ、ジャス、俺にも紹介してよ。この、めっちゃ可愛い女の子を」
木の実がジャスティンを見ると、さっきまでの優しい顔のジャスティンは消えていた。目は釣り上がり、完全に戦闘態勢に入っている狼のようだ。
「謙人、悪い。 もう、俺達、出るところなんだ」
木の実はどうしていいのか分からずに、二人の間で固まっていた。
「おいおい、紹介ぐらいいいだろ?
そんな俺が取って食べるとでも思ってんのか?
シュウ、お前はこの子の事、知ってるのか?」
あのバーテンダー、シュウって言うんだ…
木の実はいい具合にお酒が回っているせいで、不思議と冷静に今の状況を分析した。
「あ、俺はよく知ってるよ。彼女は木の実ちゃんって言うんだ」
木の実は謙人に向けてちょこんと頭を下げる。
「何で、シュウはそんな普通でいられるんだ?
いわゆる三角関係なのに…
この子だろ?
ジャスが夢中になってる女の子って」
「三角関係??」
木の実はそうつぶやいてしまった。
三角関係の意味が分からない。
私の知っている三角関係は三人の中で恋のバトルがある。
恋のバトル??
この三人で?
「俺は全然普通だよ。ジャスティンの中の変化は、俺にとってはどうしようもない事だろ?
それに、今、この子の前で話す事じゃないよ」
謙人は怒りでわなわなしているジャスティンを見ていた。
「ジャスにしてはめずらしいな。
お前は自分のセクシャリティを隠す事が一番嫌いな奴なのに。
この子にはまだ話してないんだ…
凪の時は、舞衣に会ったその日に話してたのに」
ジャスティンは何も言い返せない自分が腹立たしかった。
何もかもが初めての事で、確かに自分のセクシャリティをこんなに面倒くさいと思ったのも初めてだ。
「セクシャリティって、何ですか…?」
木の実は、謙人の目を見て真剣にそう聞いた。何か大切な深い問題が潜んでいるに違いない。
謙人はジャスティンを見て、そして、シュウも見た。
自分だってバイセクシャルだ、何も恥ずかしい事じゃない。
「ジャスは…… 今のジャスは、多分バイセクシャルなんだ。
バイセクシャルって分かる?
男も女も愛せる人の事。
ちょっと前までは、ゲイかと思ってたんだけど、どうやらバイだな、この調子なら」
木の実は、自分の中で膨らみ過ぎていた風船が、パチンと割れた気がした。
この夢のような甘い話は、やっぱり夢だったのかもしれない。
木の実は静かにジャスティンを見た。
白馬に乗った私の王子様は、訳ありのイケメンエリートだったのね…
「帰るぞ」
ジャスティンは、パニックになっている木の実の手を引いて店を出た。
自分自身も木の実に何をどう話していいのか、考える気力もない。 とにかく、エレベーターが下に降りる間ずっと、木の実の手を強く握りしめるだけだった。
「お酒飲んだから、車はここに置いていかなきゃ…」
「…うん」
一応、木の実は返事をしてくれた。
「ちょっとだけ歩こうか…?」
「…うん」
ジャスティンは、木の実は普通の女の子で、今夜謙人が連れて来たような世間の表も裏も知ってる交際経験が豊富な女性ではない事を、今になって思い知らされた。
ゲイだったり、バイだったり、都会の遊びを知っている女性ならそんなに驚く事もないだろう。 でも、木の実は、純粋無垢で平凡な女の子だ。
調子に乗ってあの店に連れて行った俺が浅はかだったし、自分のセクシャリティを隠せればなんて思った自分が本当に情けなかった。
昼間は賑わっているこの大通りも、夜になると、また違った風景を見せてくれる。
でも、ジャスティンにとって、この夜の大通りを木の実と歩いている今の時間は、きっと、思い出したくない過去になるのだろう。
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