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He is コイビト??
③
しおりを挟む木の実は、アバンクールヒルズTOKYOの正面玄関の前に立っている。
実は、モナンジュで働く前までは、このビルの存在すら知らなかった。オーナー夫妻によれば、世界の富豪達がこのビルに集まっているらしい。なおさら、この間までの私には、全く縁のない世界だった…
「今日は土曜日だから夜でも人が多いな」
木の実は緊張しながらジャスティンの後について行く。ジャスティンと同伴という事は、通りすがりの人達も木の実をセレブだと思うはずだ。そう考えるだけで、ウキウキ感が止まらない。
「今から行く店は、俺の会社の奴らにとってはたまり場みたいな所で、スタッフともすごく仲がいいんだ。
ま、でも、今日は土曜日だから、会社の人間は来ないけど、スタッフの皆はきっと優しくしてくれると思うよ」
ジャスティンは、エレベーターに乗り込むと54階のボタンを押した。
「イケメンエリート軍団の方々は、今日は来ないんだ…
ちょっとだけ見たかった気もするけど」
ジャスティンは木の実を見て笑った。
「会わなくていいんだったら会わない方がいいと思う。確かにイケメンでエリートな奴らだけど、かなりの変人だから」
イケメンでエリートで変人??
ヤバい、なおさら会いたいんですけど…
「着いたよ」
木の実はエレベーターを降りた途端、子供の時に初めてディズニーランドを訪れた時の高揚感とワクワク感を思い出した。特に、エントランスは薄暗くてプラネタリウムのようで、スペースマウンテンの雰囲気によく似ている。
「ジャスティン、その扉を開けたら、ジェットコースターなんて事はないよね?」
「ジェットコースター??」
ディズニーランドに行った事がないジャスティンにとって、木の実の言葉の意味がさっぱり分からない。 でも、分からないとしてもこういうシチュエーションには少しずつ慣れてきた気がする。
「いらっしゃいませ」
重厚な扉の先から現れたのは、真っ黒いタキシードに身を包んだ正統派のイケメンだった。
木の実はあまり顔をジロジロ見ないように気をつけながら、澄ました表情で軽く会釈をした。
「ジャスティン様、お席はどうなさいますか?
個室は今なら空いてますが、いつものカウンターの席でも大丈夫です」
ジャスティンは木の実を横目で見て、狭い部屋よりもきっと広いメインスぺースの方が喜ぶだろうと考え、カウンターの席でお願いした。
木の実はそのバーの雰囲気に圧倒されていた。店の中はやっぱり薄暗くまだプラネタリウムの中にいるようだ。そして、一面がガラス張りのせいで、東京の美しい夜景と店の雰囲気が一体化して見える。
「素敵…
宇宙旅行をしてるみたい…」
ジャスティンは目をキラキラさせながらバーを見回している木の実を見て、もっともっと色々な場所に連れて行ってあげたいと心から思った。
「よう、ジャス、来てくれたんだ」
木の実が声がする方に顔を向けると、店の中央にある楕円形のカウンターテーブルの中で手を振るワイルド系イケメンと目が合った。
「木の実ちゃん、久しぶり」
木の実は瞬時に頭の中をフル回転させた。
誰?
知らない。
どこかで会った?
会ってない。
でも、木の実ちゃんって……
え、もしかしたら、借金取りの中にこんなイケメンがいたのかもしれない…
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