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He is ホモサマ??
③
しおりを挟む「ねえ、木の実の写真撮っていい?
苺を見てるその感じで」
木の実は最高にいい気分だった。
「いいですよ~」
ジャスティンは自分のスマホで写真を撮るなんて今までほとんどなかった。木の実とグラスにピントを合わせたら、もう止まらずに何枚も写真を撮っている。
木の実は半分酔っているせいか、ニコニコ笑顔が止まらない。
「ねえ、木の実の苺を俺にもちょうだい」
「いいですよ~~」
木の実はグラスの底にある苺を取り出そうと思ったけれど、フォークもスプーンも何も近くにはない。
「ジャスティン、この苺、どうやって取ればいい?」
ジャスティンはわざとらしく外国人特有の目をぐるっと回す仕草をして、したり顔で木の実を見つめる。
「木の実の口からちょうだい」
「え?」
さすがの木の実もほんのり酔ってはいるけれど、この会話の意味は分かった。
「……外国の方は、そういう事って普通にやるの?」
「うん、日常茶飯事、挨拶みたいなもんだよ」
そんなわけないじゃんと、ジャスティンはちょっと笑った。
木の実は苺をたどたどしく口に含むと、ジャスティンを見ていつものように肩をすくめて微笑んだ。その木の実の仕草で、ジャスティンの理性と守り続けたセクシャリティが音を立てて崩れていく。
ジャスティンは大きな苺を頬張る木の実に、優しくそしてむさぼるようなキスをした。
「ジャ、ジャスティン、い、苺…」
シャンパンと苺の甘い味は、初めて味わう木の実というたった一つの味となって、ジャスティンをまだ見ぬ世界へ連れて行く。
ジャスティンのとろけるようなキスは、木の実の心を完全に撃ち抜いた。
木の実の口にある苺は、ずっとジャスティンのキスが止むのを待っている。でも、その苺を口に含んだままのキスが、木の実の中に新しい感情を生み出した。
この苺をいつまでも口にくわえていたい。
だって、そうすれば、いつまでもジャスティンがキスを止めないでいてくれるから。
でも、苺は木の実の想いとは裏腹に口の中で小さくなり、いつの間にか溶けていた。
「あ……」
キスの途中なのに、木の実はそんな声を出してしまう。
「どうした…?」
「苺が……
なくなっちゃった……」
ジャスティンは、そんな木の実を優しく抱きしめる。
もう、絶対に、木の実のこのキスの味を一生忘れるなんてできないと確信しながら。
「ねえ、俺達ってヤバくない?」
「え?」
木の実はジャスティンの胸に抱かれながら、キスのせいでまた違う意味でほろ酔い気分になっていた。
「いや、俺達じゃないか、俺だな、ヤバいのは…
ちょっとパニくってる。
今までの俺は、一体何者だったんだ?
俺のアイデンティティは、今、上書きされて全く違うものになったも同然だよ」
木の実の朦朧とする頭にジャスティンの言葉は響かない。ジャスティンの話している言葉の意味は、今の木の実にはさっぱり分からなかった。
そんな木の実を眺めながら、ジャスティンは小さくため息をつく。
俺は完全なるバイセクシャルだ。
いや、今の俺は、バイでもない。
たった一人の女の子に全てを持っていかれたマヌケなただの男だ。
どれ位時間が経ったのだろう…
木の実はジャスティンの肩に寄りかかり、なんとなくウトウトしていた。
ジャスティンが観ているCS放送のCNNニュースのアナウンサーの声が、心地よく木の実の耳に響いてくる。
ピルルル、ピルルル…
どうやらインターホンが鳴っているらしい。木の実はジャスティンの肩から大きなクッションに頭を移動させられた。
「ちょっと待ってて。
ここで寝て大丈夫だから、もう目を閉じておやすみ…」
ジャスティンはそう囁くと、前髪を止めるためにつけていたカチューシャを取り、無造作に髪を揺らした。
木の実は半分夢の中で、そんなカッコいいジャスティンの気配を感じてときめいた。
「シュウか…? マジかよ…
あ、悪い、今、部屋には来てほしくない。
俺が下に行くから、エントランスで待ってて」
ジャスティンはインターホン越しにそう言うと、リビングから出て行った。でも、すぐに戻って来ると、寝ている木の実に柔らかい毛布をかけてから。
「ちょっとだけ出てくるね。
ここで寝ていいから、ちゃんと、俺がベッドに運んであげるからさ」
ジャスティンはそう言うと、木の実のほっぺにキスをした。
木の実の瞼は重く精一杯に開けてみても、きっとジャスティンには閉じてる様にしか見えていないはず。
でも、木の実は小さく頷いた。
それをジャスティンが気づいたかは分からないけれど…
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