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He is 日本男児??

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 ジャスティンは、夜の暗闇のせいか、お化け屋敷に向かっている気分だった。まずは、そのアパートの入り口に行くまでに、建物と建物の間にある細い小道を歩かなければならない。
 その付近は街灯もなく、女の子が一人で歩くなんて絶対にあり得ない。


「ここの2階になります」


 鈴木はそう言うと、その小さな入口にある小さな靴箱に靴を入れ、そして、小さく急な階段を上り始めた。


「ジャスティンはここで待っててもいいよ。
 だって、このアパートのサイズはジャスティンには小さ過ぎるから」


 確かに小さいとは思ったが、でも、こんな暗くて狭い部屋を木の実が契約するかもしれないと思うと行かないわけにはいかない。


「大丈夫、行くよ」


 ジャスティンは靴を脱いで腰をかがめながら、そのきしむ音がうるさい小さな階段を上り始めた。


「この物件は一応お風呂とトイレはついてます。
 部屋は4畳半ですが、昔の作りなので今で言えば5畳ちょっとあると思いますよ。
 窓はこの一つで、家賃が安い理由の一つに、ベランダがない事と、あと洗濯機置き場もないので、お風呂場の中に置くことなんです」


 ジャスティンは天を仰ぎたくなった。
 風呂場に洗濯機?
 風呂場に洗濯機を置いたら、残りのスペースは風呂の小さな浴槽しかなくなるじゃないか。

 あと、あの小さな窓もあり得ない。
 木の実も鈴木という人間もあえて窓の先の風景には触れない理由は、窓を開けたすぐ先は隣のビルの壁だからだ。


「よし、はい、よく分かりました。
 分かったよな? 木の実。
 もう、今日はこれでいいです」


 木の実も鈴木もポカンとして、ジャスティンを見た。


「いや、もう一軒あるんですけど」


 鈴木がそう言うと、ジャスティンはすりガラスの窓を開け、いかにも外のそびえ立つ壁をわざと見せつけるように、その窓の縁に腰かけた。


「そのもう一軒は、ここよりいいのかな?」


「あ、いや、値段が値段なので、次の物件も似たような感じです。
 でも、確か、風呂がついてなくて、あ、でも、近くに銭湯があるのでそれは大丈夫と矢代様が…」


 木の実は、鈴木の困り顔が可笑しかった。でも、そんな風に他人事のように思う自分が、もっと恐ろしい。
 このイケメンエリート軍団のジャスティンを、ここへ連れて来てしまう前の時点からやり直したい。絶対に、何があっても拒むべきだった。


「ジャスティン、私には時間がなくて、だから…」


 木の実が最後まで言わない内に、ジャスティンは鈴木に声をかけた。


「車を出してもらえる? もう、帰りたいんだけど」


 ジャスティンは笑顔で鈴木に目配せをした。
 目配せをされた鈴木は、ジャスティンに何も抵抗できない。まるで、西洋の何か魔法をかけられてしまったかのように。


「とりあえず、家探しについてゆっくり話し合おう。それと、こんな物件は、俺は絶対許さないから」


 木の実は訳が分からなかった。そして、昼間にお客様が話していたジャスティンの情報をふいに思い出す。


“見かけと違って、ザ・日本男児らしいわよ”



 木の実とジャスティンは不動産屋の用事を済ませ、ジャスティンの家の近くのレストランで夕食を取った。

 木の実にしてみれば、まだ続くはずの物件見学をジャスティンによって強制終了された感が否めない。

 でも、ジャスティンに連れて来られた超豪華なレストランで、美味しい料理を目の前にして何も反論できない自分が情けなかった。
 いや、ジャスティンを相手に最初から反論する気なんてないのも分かっている。だって、反論する事は、私の事情をさらけ出す事だから。


「今日はちゃんと話してもらうからな」


 ほら、こうなる事が分かっていた。
 木の実は、食べるのに夢中で何も聞こえません的なオーラを必死に醸し出す。


「あ、そういえば、今日、お客様からジャスティンの情報をちょっと仕入れました」


 木の実は話を上手くすり替えることができて、ちょっと安心した。


「ジャスティンってイケメンエリート軍団の一員なんですね?
 って言っても、そのイケメンエリート軍団っていうのも初耳だったんですけど」


 木の実は前菜を平らげると、やっと顔を上げてジャスティンを見た。


「俺の話はどうでもいいんだけど…
 ねえ、それより、なんであんな安くて古いアパートを探してるんだ?」


 木の実は、パンにバターを塗る事に必死になっているふりをする。


「ジャスティンは、5か国語を操るって本当ですか?」


 木の実は負けずに話の主導権を取り戻した。
 だって、こんなお金持ちでイケメンエリートの青い目の王子様に、自分の悲惨な状況を知ってほしくない。



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