上 下
14 / 48
He is 日本男児??

しおりを挟む


 ジャスティンは、夜の暗闇のせいか、お化け屋敷に向かっている気分だった。まずは、そのアパートの入り口に行くまでに、建物と建物の間にある細い小道を歩かなければならない。
 その付近は街灯もなく、女の子が一人で歩くなんて絶対にあり得ない。


「ここの2階になります」


 鈴木はそう言うと、その小さな入口にある小さな靴箱に靴を入れ、そして、小さく急な階段を上り始めた。


「ジャスティンはここで待っててもいいよ。
 だって、このアパートのサイズはジャスティンには小さ過ぎるから」


 確かに小さいとは思ったが、でも、こんな暗くて狭い部屋を木の実が契約するかもしれないと思うと行かないわけにはいかない。


「大丈夫、行くよ」


 ジャスティンは靴を脱いで腰をかがめながら、そのきしむ音がうるさい小さな階段を上り始めた。


「この物件は一応お風呂とトイレはついてます。
 部屋は4畳半ですが、昔の作りなので今で言えば5畳ちょっとあると思いますよ。
 窓はこの一つで、家賃が安い理由の一つに、ベランダがない事と、あと洗濯機置き場もないので、お風呂場の中に置くことなんです」


 ジャスティンは天を仰ぎたくなった。
 風呂場に洗濯機?
 風呂場に洗濯機を置いたら、残りのスペースは風呂の小さな浴槽しかなくなるじゃないか。

 あと、あの小さな窓もあり得ない。
 木の実も鈴木という人間もあえて窓の先の風景には触れない理由は、窓を開けたすぐ先は隣のビルの壁だからだ。


「よし、はい、よく分かりました。
 分かったよな? 木の実。
 もう、今日はこれでいいです」


 木の実も鈴木もポカンとして、ジャスティンを見た。


「いや、もう一軒あるんですけど」


 鈴木がそう言うと、ジャスティンはすりガラスの窓を開け、いかにも外のそびえ立つ壁をわざと見せつけるように、その窓の縁に腰かけた。


「そのもう一軒は、ここよりいいのかな?」


「あ、いや、値段が値段なので、次の物件も似たような感じです。
 でも、確か、風呂がついてなくて、あ、でも、近くに銭湯があるのでそれは大丈夫と矢代様が…」


 木の実は、鈴木の困り顔が可笑しかった。でも、そんな風に他人事のように思う自分が、もっと恐ろしい。
 このイケメンエリート軍団のジャスティンを、ここへ連れて来てしまう前の時点からやり直したい。絶対に、何があっても拒むべきだった。


「ジャスティン、私には時間がなくて、だから…」


 木の実が最後まで言わない内に、ジャスティンは鈴木に声をかけた。


「車を出してもらえる? もう、帰りたいんだけど」


 ジャスティンは笑顔で鈴木に目配せをした。
 目配せをされた鈴木は、ジャスティンに何も抵抗できない。まるで、西洋の何か魔法をかけられてしまったかのように。


「とりあえず、家探しについてゆっくり話し合おう。それと、こんな物件は、俺は絶対許さないから」


 木の実は訳が分からなかった。そして、昼間にお客様が話していたジャスティンの情報をふいに思い出す。


“見かけと違って、ザ・日本男児らしいわよ”



 木の実とジャスティンは不動産屋の用事を済ませ、ジャスティンの家の近くのレストランで夕食を取った。

 木の実にしてみれば、まだ続くはずの物件見学をジャスティンによって強制終了された感が否めない。

 でも、ジャスティンに連れて来られた超豪華なレストランで、美味しい料理を目の前にして何も反論できない自分が情けなかった。
 いや、ジャスティンを相手に最初から反論する気なんてないのも分かっている。だって、反論する事は、私の事情をさらけ出す事だから。


「今日はちゃんと話してもらうからな」


 ほら、こうなる事が分かっていた。
 木の実は、食べるのに夢中で何も聞こえません的なオーラを必死に醸し出す。


「あ、そういえば、今日、お客様からジャスティンの情報をちょっと仕入れました」


 木の実は話を上手くすり替えることができて、ちょっと安心した。


「ジャスティンってイケメンエリート軍団の一員なんですね?
 って言っても、そのイケメンエリート軍団っていうのも初耳だったんですけど」


 木の実は前菜を平らげると、やっと顔を上げてジャスティンを見た。


「俺の話はどうでもいいんだけど…
 ねえ、それより、なんであんな安くて古いアパートを探してるんだ?」


 木の実は、パンにバターを塗る事に必死になっているふりをする。


「ジャスティンは、5か国語を操るって本当ですか?」


 木の実は負けずに話の主導権を取り戻した。
 だって、こんなお金持ちでイケメンエリートの青い目の王子様に、自分の悲惨な状況を知ってほしくない。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~

あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……

冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話

水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。 相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。 義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。 陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。 しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。

皆で異世界転移したら、私だけがハブかれてイケメンに囲まれた

愛丸 リナ
恋愛
 少女は綺麗過ぎた。  整った顔、透き通るような金髪ロングと薄茶と灰色のオッドアイ……彼女はハーフだった。  最初は「可愛い」「綺麗」って言われてたよ?  でも、それは大きくなるにつれ、言われなくなってきて……いじめの対象になっちゃった。  クラス一斉に異世界へ転移した時、彼女だけは「醜女(しこめ)だから」と国外追放を言い渡されて……  たった一人で途方に暮れていた時、“彼ら”は現れた  それが後々あんな事になるなんて、その時の彼女は何も知らない ______________________________ ATTENTION 自己満小説満載 一話ずつ、出来上がり次第投稿 急亀更新急チーター更新だったり、不定期更新だったりする 文章が変な時があります 恋愛に発展するのはいつになるのかは、まだ未定 以上の事が大丈夫な方のみ、ゆっくりしていってください

ハイスペックでヤバい同期

衣更月
恋愛
イケメン御曹司が子会社に入社してきた。

処理中です...