9 / 48
He is 日本男児??
①
しおりを挟む木の実は、朝からジャスティンの車に乗っている。ジャスティンの車は素晴らしい。見た目でも乗り心地でも超高級車という事はすぐに分かる。
でも、残念ながら、車音痴な木の実にはその車のブランド名も名前も何も分からない。この最高にカッコいい車が本当に気の毒だ。車音痴な木の実は、動けばどれも一緒というそういう価値観しか持ち合わせていなかった。
「木の実はさ、今、洋服って何枚くらい持ってる?」
木の実はジャスティンのその質問を聞いて、すぐに自分の格好を見た。
「一通りセットで2パターン位かな…
ダメですか…?」
信号待ちで車が止まった時に、ジャスティンは隣に座る木の実の姿を上から下までわざと観察した。木の実は緊張した顔で縮こまっている。
ジャスティンの見立てでは、中のインナーが違うだけでパンツもカーディガンも昨日と一緒だ。髪型も昨日と同じで頭のてっぺんで大きなお団子を作っている。それはそれで、めちゃくちゃ最高に可愛いけれど。
「荷物ってさ、あのトランク一つなの?」
ジャスティンは車を発進させ、横目で木の実の様子を伺いながら聞いてみた。
「荷物は…
私の一切の家財道具は、埼玉の田舎にあるトランクルームに預けてるんです。
取りに行ってもいいんですけど、何せ遠くて…」
「トランクルーム?」
また、木の実は黙り込む。毎回ちょっとだけ情報をチラつかせてシャットアウトするのがいつものパターンだ。
「夜逃げでもした…?」
木の実は明らかに目をパチクリさせた。その微妙な動きを、ジャスティンは決して見逃さない。
「…夜逃げっていう言葉の意味が今一つ分からないのですが、でも、逃げたと言えば、逃げた…
でも、それは夜じゃない… そんな感じです」
ジャスティンは、これは新しいタイプの男を落とす作戦なのかもしれないと、ちょっとだけ思った。
彼女の情報を小出しにされるたびに、それを聞かされる男はますます興味が増すし、彼女の謎に満ちた全てを知りたくなる。
きっと、今のジャスティンと木の実の関係は、子リスが興味本位で作った罠に気取った狼がまんまと嵌まってしまったみたいなそんな感じだろう。
「ねえ、俺にいつになったら話してくれるの?」
聞きたくてしょうがないジャスティンは甘えた声でそう聞いてみた。
「え? 何も話す事はないですよ。何もやましくてヤバい事はありませんから…」
ジャスティンはハンドルをさばきながら、鼻でフフッと笑った。
やましくてヤバい事が大有りだな。
でも、この話はこれ以上膨らまさない事にした。もう信号の先にはアバンクールヒルズTOKYOが見えていたから。
いつもより遅い出勤になったジャスティンを待ち構えていたのは謙人だった。謙人は、ジャスティンが自分のブースに入ったと同時に声をかけてくる。
「ジャス、おはよう」
ジャスティンは面倒臭そうに謙人を見た。謙人は明らかににやつきながらジャスティンを見ている。
「昨夜さ、あの女の子を追ってったろ?」
確かにジャスティンの隣に座っていたのは謙人で、最初に挙動不審の木の実に気づいたのも謙人だった。
「別にそんなんじゃないよ」
ジャスティンは、謙人だけじゃなく他の皆にも木の実の事を話す気はなかった。
男にしか興味がないはずのジャスが期間限定ではあるけれど女の子と住んでるなんて、凪が舞衣にのぼせ上がった以上にここでのビッグニュースになる。
それに、自分の行動自体を理解できていないのに、皆に突っ込まれたら何も説明できない。
「用があったのを思い出しただけだよ」
「シュウか?」
「それは違う」
ジャスティンは朝の習慣のメールやメッセージのチェックを必要以上にやり始める。謙人はそんなジャスティンを面白がって見ている。
「なあ、謙人、邪魔なんだけど」
謙人はにやつきながら、後ろに束ねた髪をもう一度結び直した。
「ジャス、女の子に困ったらいつでも俺に言うんだぞ。ゲイだからって、女の子を抱けないわけじゃないんだから」
謙人はナルシストなくせに、中身は誰よりも究極の男だった。星の数ほどいるセフレの中から、何人かをジャスティンに紹介する事なんて、食事をするより簡単な事だ。
10
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
同期に恋して
美希みなみ
恋愛
近藤 千夏 27歳 STI株式会社 国内営業部事務
高遠 涼真 27歳 STI株式会社 国内営業部
同期入社の2人。
千夏はもう何年も同期の涼真に片思いをしている。しかし今の仲の良い同期の関係を壊せずにいて。
平凡な千夏と、いつも女の子に囲まれている涼真。
千夏は同期の関係を壊せるの?
「甘い罠に溺れたら」の登場人物が少しだけでてきます。全くストーリには影響がないのでこちらのお話だけでも読んで頂けるとうれしいです。
六畳二間のシンデレラ
如月芳美
恋愛
8ケタの借金を残したまま、突然事故死した両親。
学校は? 家賃は? 生活費は? 借金の返済は?
何もかもがわからなくてパニックになっているところに颯爽と現れた、如何にも貧弱な眼鏡男子。
どうやらうちの学校の先輩らしいんだけど、なんだか頭の回転速度が尋常じゃない!
助けられているのか振り回されているのか、あたしにも判断不能。
あたしの生活はどうなってしまうんだろう?
お父さん、お母さん。あたし、このちょっと変な男子に任せていいんですか?
※まだ成人の年齢が18歳に引き下げられる前のお話なので、現在と少々異なる部分があります。

Sランクの年下旦那様は如何でしょうか?
キミノ
恋愛
職場と自宅を往復するだけの枯れた生活を送っていた白石亜子(27)は、
帰宅途中に見知らぬイケメンの大谷匠に求婚される。
二日酔いで目覚めた亜子は、記憶の無いまま彼の妻になっていた。
彼は日本でもトップの大企業の御曹司で・・・。
無邪気に笑ったと思えば、大人の色気で翻弄してくる匠。戸惑いながらもお互いを知り、仲を深める日々を過ごしていた。
このまま、私は彼と生きていくんだ。
そう思っていた。
彼の心に住み付いて離れない存在を知るまでは。
「どうしようもなく好きだった人がいたんだ」
報われない想いを隠し切れない背中を見て、私はどうしたらいいの?
代わりでもいい。
それでも一緒にいられるなら。
そう思っていたけれど、そう思っていたかったけれど。
Sランクの年下旦那様に本気で愛されたいの。
―――――――――――――――
ページを捲ってみてください。
貴女の心にズンとくる重い愛を届けます。
【Sランクの男は如何でしょうか?】シリーズの匠編です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
Perverse
伊吹美香
恋愛
『高嶺の花』なんて立派なものじゃない
ただ一人の女として愛してほしいだけなの…
あなたはゆっくりと私の心に浸食してくる
触れ合う身体は熱いのに
あなたの心がわからない…
あなたは私に何を求めてるの?
私の気持ちはあなたに届いているの?
周りからは高嶺の花と呼ばれ本当の自分を出し切れずに悩んでいる女
三崎結菜
×
口も態度も悪いが営業成績No.1で結菜を振り回す冷たい同期男
柴垣義人
大人オフィスラブ
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える
たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー
その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。
そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる