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He is ナニモノ??

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「あ、あの…
どなたか存じませんが、本当にありがとうございました…」


 ジャスティンは、まだ小刻みに震えているその子から目が離せずにいた。


「誰かと待ち合わせ?」


「い、いや、あの、たまたまこのビルに入っちゃって…
 なんだか、映画の世界に迷い込んだみたいなそんな気持ちになって、このビルを見学してたんです」


 やっぱりな… そういうことだろうと思ったよ。


「本当にごめんなさい、もう帰ります。え?」


「え?」


 可愛らしい顔から飛び出す言葉は理解不能だ。


「あの、日本語お上手なんですね。
 私のタイ人の友達のコルニャは、2年も日本に住んでるのに、まだちんぷんかんぷんな日本語なんです。どうしましょうって感じです」


 その子は肩をすくめて笑って見せた。


「あ~ そうか。
 俺はこんな見た目は外人だけど、日本生まれの日本育ちだから。多分、コルニャ?より、いや君よりも、日本語上手いと思うよ」


 その子は今度はケラケラ笑った。笑った顔は小動物のリスに似ている。


「じゃ、本当に帰りますね。お世話になりました」


 でも、ジャスティンは、その子の持ち物のスーツケースを掴んでいる。


「今、一人で帰ったら、また警備員に捕まるよ」


 その子は怯えた顔をしてまた固まっている。


「俺が家まで送ってあげるよ。大丈夫、変な奴じゃないから。このビルの27階にある“EOC”で働いてるんだ」



「“EOC”??」


 ジャスティンはその子の事を、本当にこのビルに迷い込んだ森の子リスだと思う事にした。それなら日本語が通じなくても納得できる。


「あ、ごめん。俺の名前は、ジャスティンって言うんだ。
 君の名前は?」


「わ、私は、木の実と言います」


「このみ? どういう漢字書くの?」


 ジャスティンはスーツケースを押しながら何の気なしに聞いてみた。


「木の実のこのみです」


 ジャスティンは、その子を二度見してから笑ってしまった。
 木の実ってやっぱりリスじゃんか…


「木の実って書くんだ、珍しいね。じゃ、ごめん、悪いけど、ナッツって呼ばせてもらうね。
 いいじゃん、可愛いじゃん、ナッツって」


 ジャスティンは一人で浮かれていた。このナッツの存在が、何だかとても心地いい。


「ナッツでも木の実でも何でもいいんですが…
 私、やっぱり、歩いて帰ります…」


「え? 何で?」


 ナッツは下を向いたまま、もぞもぞ何かを言っている。


「何? 聞こえないよ」


「私、実は、家がないんです…
 今、今だけなんですけど、だから、大丈夫です。歩いて帰りますので」






 木の実はジャスティンというイケメンに、これ以上の事情を知られる前に早く退散しなきゃと焦っていた。
 ジャスティンは、見た目は金髪で青い瞳の外国人なのに話せば普通の日本人だった。そのギャップが木の実の胸をキュンキュンと突いてくる。

 こんな素敵なイケメン君と出会った今のこの状況は、木の実にとっては最悪としか言いようがなかった。
 家がない事を何故と聞かれれば、元カレの借金取りに追われていますなんて口が裂けても言えないし、言いたくもない。だって、こんなにも輝いているジャスティンの辞書には、借金とか家無しとかそんなワードは存在しないはずだから。
 これ以上、みじめなナッツにはなりたくない。


「警備員さんに事情を説明して歩いて帰ることになったって言いますので、大丈夫です」


 木の実は丁寧にジャスティンからスーツケースを受け取ると、お辞儀をして出口に向かって歩き出した。


「ねえ!」


 後ろでジャスティンが私を呼んでる?
 木の実が振り返ると、ジャスティンはもう木の実の真後ろに立っていた。


「寝るとこないなら、俺ん家に来る?
 結構、家広いし、全然いいよ」


「………あ、でも」


 ジャスティンは最高な微笑みを浮かべて木の実に囁きかける。


「大丈夫、何も心配ないよ。だって俺は…
 女の子には興味はないから」



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