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He is ナニモノ??
③
しおりを挟むとりあえず7階で降りた木の実は、早歩きでそのフロアを歩き始めた。
別に一周しなくてもよかったのだけれど、そこが木の実のいいところでもあり悪いところでもある。さっき感じた危機感は、もう木の実の中では消えていた。
興味のある物や珍しい物を目にするとすぐにその魅力の虜になり、自分の立ち場やその状況をすっかり忘れてしまう。いい意味で素直で単純、悪い意味ではただの空気が読めないバカと周りの人によく言われた。
木の実は早歩きで一周するはずがいつの間にかゆっくりと歩き、最悪な事にレストランの中を覗いたりもした。
あ~、素敵…
こんな場所で食事をする人達と友達になりたい…
木の実は、今、自分に家がない事などすっかり忘れ、このフレンチレストランで食事をするセレブな自分を思い浮かべうっとりとしている。
そして、そんな状態のまま、またエレベーターに乗り込み、止まった地下3階に何も考えずに降りた。
木の実はまだうっとりとしていた。無意識の内に前を歩く人について行くと、何と着いた場所は駐車場だった。
木の実の前を歩く人が何度も振り返って、不思議な目で木の実を見ている。明らかに、怪しい人と思われているのが分かった。
「か、彼が、あの、迎えに来てくれてるんです…」
前を歩く年配の男性は、その言葉を聞いても納得していない顔をしていた。木の実から目を離さずに、木の実がゴロゴロ引いているスーツケースをチラッと見ては不可解な顔をする。
木の実が急ぎ足で歩き出すと、その年配の男性はスマホを取り出し誰かに電話をかけ始めた。
あ~、ヤバいよ…
こんなとこで捕まりたくない…
木の実が泣きそうな顔で当てもなく駐車場を歩いていると、誰かが木の実の腕を強く引っ張った。
「ねえ、もしかして、君って家出少女?」
木の実は息をすることを忘れてしまった。
外国人の知り合いなんて、大学の時の留学生でタイ人のコルニャだけだ。それがこんな切羽詰まった状況で、金髪で美形のイケメン男子が木の実の腕を握っている。
木の実がポカンとその人を見ていると、さっきの年配の男性と警備員がこちらへ走って来た。
「警備員さん、この子です。
ちょっと挙動不審で、このビル内をスーツケースをゴロゴロ転がしてうろついている女の子」
木の実はやっと我に返り、怒った顔の警備員を見て固まってしまう。
「警備員さん、この子は僕の知り合いです。
あ、僕は、“EOC”のジャスティン・レスターです。
何か、問題でしょうか?」
「あ、“EOC”のレスターさんですか?
よく存じ上げています。
レスターさんのお知り合いなら、何の問題もありません。
どうも失礼いたしました」
ジャスティンは上手に警備員達を追い払うと、このビルにはそぐわない出で立ちの珍客をジッと見た。
実は、“EOC”のメンバーとフレンチレストランで食事をしていた時に、この不思議な女の子を見かけた。
ガラスで仕切られてはいるけれど、オープンテラスになっているテーブルで食事をとっていると、虹色のど派手なスーツケースを転がして歩いている女の子を見つけた。
超ラフな格好で、でも、全体的にバランスがよく、お洒落の質がジャスティンの好みだった。それでいて髪は全部アップにして、てっぺんに大きなお団子が乗っかっている。
耳元や首元には後れ毛が揺れていて、ジャスティンの母方の祖国フランスの女の子を思い起こさせる。小さな顔に大きな目、鼻は小さく、口元に見える口のサイズの割に大きな前歯がとても可愛らしかった。
そんな異彩を放つ不思議な女の子が、このレストランの中を覗いて見ている。すると、その子は慌てたように逃げるようにその場から立ち去った。
「ごめん、すぐ戻るから、ゆっくり食べてて」
ジャスティンは映司達にそう言うと、トイレに行くふりをしてその子の後を追った。同じエレベーターに乗り込んだのに、ジャスティンの事など見向きもしない。その子は夢見がちなトロンとした目でずっと外の景色を見ていた。
そんな彼女が、駐車場の地下3階で降りた時にはさすがに驚いた。
車で来てるのか?
ここの駐車料金は恐ろしくバカ高いのに…
そう思いながらまた後をつけると、やっぱりこんな調子だった。
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