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He is ナニモノ??

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 木の実は面接を終え、スーツケースを置いている駅へ向かった。
 こんな私があのセレブな花屋さん“モナンジュ”に採用された。可愛らしい制服を着た女性が二人と、オーナーと奥様の四人で切り盛りしているお店だが、その内の一人の女性スタッフが近々結婚する事になり、明日にも実家へ帰るところだった。

 穏やかで優しそうなオーナーは、私の実家が花屋だという事を知ると、すぐに採用と言ってくれた。
 私は、今、家を探している最中だという事を伝え、しばらくはホテル住まいだという事も正直に話した。ホテル住まいは嘘になるかもしれないけれど、でも、さすがに、あのお上品なお店でネットカフェ住まいとは言えなかった。

 朝の10時から夜の7時までで休憩が60分、時給は2000円、資格も何もない木の実にとっては最高にいい条件だ。
木の実はすぐにスマホで一か月のお給料を計算した。

 とにかく、大急ぎで家を探さなきゃ…
 場合によっては、前借りとかしたいけどそんなお店じゃないよね…

 木の実はため息をつきながらスマホで一番格安のネットカフェを探してみる。こんな時は何をしてもいい風に物事が運ぶみたいで、“モナンジュ”から一駅の場所に中々いいネットカフェを見つけた。

 よし、ここしばらくが正念場だけど、木の実、負けるな、頑張ろう。
 根っからの超楽観的思考の木の実は、怖がりで臆病な事は忘れ、その格安ネットカフェへ向かった。




 初日の“モナンジュ”は、木の実にとっては好スタートだった。
 花屋の一日を大体分かっている事が、やはり強みだった。朝の花の仕入れはオーナー夫妻が全てを仕切っていて、木の実は店内の接客だけでよかった。

 でも、花の種類はほとんど分かっているけれど、値段が倍以上に違う。高級志向のお客様が多いこの店で取り扱っている花々は、普通一般の仕入れとはルートも違えば金額も違う。
 そして、木の実の目に映るここにいる花々は、全ての花がプライドを持ち、背筋を伸ばし澄ましているように見えて楽しかった。

 小さい時から両親が花束やブーケを作るところを見て育ったため、木の実はフラワーアレンジメントも難なくこなす事ができた。


「木の実ちゃん、器用ね」


 一緒に働くもう一人のバイトさんは水田さんといって、木の実より10歳年上の主婦の方だ。


「器用というよりこの風景が日常だったので、自然と身についてる感じです」


 水田さんは私の手さばきを感心した顔で見ている。
 

「それより、家は決まったの?
 ホテル住まいって、お金かかるでしょ?」


 木の実は困ったふうに微笑んで、大きくため息をついた。
 本当に真剣に考えなければならない。昨日利用したネットカフェはもう最悪最低だったから。
 値段が安いと客のレベルも下がるのはしょうがないけれど、でも、あんな居心地の悪さはお金を捨てたのと一緒だった。


「今週中には、絶対決めます。すみません、心配かけて…」


 木の実はきっちり7時まで働いて、その後、オーナー夫妻の片付けまで手伝った。それでもまだ8時にしかならない。
 実は、木の実は、昼休みの間にまた新しいネットカフェを探していた。でも、そのネカフェは夜の11時にしか入店できない。11時以降の入店なら値段がグンと安くなるからだ。

 木の実は外へ出ると、“モナンジュ”の入っているビルの正面にある、更に豪華なビルに吸い込まれるように入っていった。ただどんなビルか見学するために、何の気なしに入ったのが失敗の元だった。

 そのビルは、レストランが並ぶフロアとホテルへ続くエレベーターしか動いていないようだ。いや、動いているのかもしれないけれど、一般人はそのエリアにしか入れないようになっている。

 スーツケースをゴロゴロ転がす木の実は、セレブの人達の目を引くらしくすれ違う人に必ず二度見された。
 木の実はそんな状態にも関わらず、とりあえずレストランの多いフロアへ行く事にした。きっと、値段が高くてどの店にも入れないのは分かっているけれど、でも、このビル内を見学して時間を潰したい。

 エレベーターに乗り込んだ木の実は、もうこの時点で場違いな所に来てしまった事を後悔していた。
 決して見た目は悪くない方だと思っている。
 身長も165cmはあるし、友達からはモデルみたいとも言われた事がある。
 でも、今日の格好がまずかった。
 ジーンズ生地の幅広のワイドパンツに紺と白のボーダーシャツ、その上によれよれの緑色のカーディガンをはおり、足元は白のコンバースといった具合だ。

 絶対、浮いてる…
 いや、確実に、浮いてる…



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