2 / 48
He is ナニモノ??
②
しおりを挟む木の実は面接を終え、スーツケースを置いている駅へ向かった。
こんな私があのセレブな花屋さん“モナンジュ”に採用された。可愛らしい制服を着た女性が二人と、オーナーと奥様の四人で切り盛りしているお店だが、その内の一人の女性スタッフが近々結婚する事になり、明日にも実家へ帰るところだった。
穏やかで優しそうなオーナーは、私の実家が花屋だという事を知ると、すぐに採用と言ってくれた。
私は、今、家を探している最中だという事を伝え、しばらくはホテル住まいだという事も正直に話した。ホテル住まいは嘘になるかもしれないけれど、でも、さすがに、あのお上品なお店でネットカフェ住まいとは言えなかった。
朝の10時から夜の7時までで休憩が60分、時給は2000円、資格も何もない木の実にとっては最高にいい条件だ。
木の実はすぐにスマホで一か月のお給料を計算した。
とにかく、大急ぎで家を探さなきゃ…
場合によっては、前借りとかしたいけどそんなお店じゃないよね…
木の実はため息をつきながらスマホで一番格安のネットカフェを探してみる。こんな時は何をしてもいい風に物事が運ぶみたいで、“モナンジュ”から一駅の場所に中々いいネットカフェを見つけた。
よし、ここしばらくが正念場だけど、木の実、負けるな、頑張ろう。
根っからの超楽観的思考の木の実は、怖がりで臆病な事は忘れ、その格安ネットカフェへ向かった。
初日の“モナンジュ”は、木の実にとっては好スタートだった。
花屋の一日を大体分かっている事が、やはり強みだった。朝の花の仕入れはオーナー夫妻が全てを仕切っていて、木の実は店内の接客だけでよかった。
でも、花の種類はほとんど分かっているけれど、値段が倍以上に違う。高級志向のお客様が多いこの店で取り扱っている花々は、普通一般の仕入れとはルートも違えば金額も違う。
そして、木の実の目に映るここにいる花々は、全ての花がプライドを持ち、背筋を伸ばし澄ましているように見えて楽しかった。
小さい時から両親が花束やブーケを作るところを見て育ったため、木の実はフラワーアレンジメントも難なくこなす事ができた。
「木の実ちゃん、器用ね」
一緒に働くもう一人のバイトさんは水田さんといって、木の実より10歳年上の主婦の方だ。
「器用というよりこの風景が日常だったので、自然と身についてる感じです」
水田さんは私の手さばきを感心した顔で見ている。
「それより、家は決まったの?
ホテル住まいって、お金かかるでしょ?」
木の実は困ったふうに微笑んで、大きくため息をついた。
本当に真剣に考えなければならない。昨日利用したネットカフェはもう最悪最低だったから。
値段が安いと客のレベルも下がるのはしょうがないけれど、でも、あんな居心地の悪さはお金を捨てたのと一緒だった。
「今週中には、絶対決めます。すみません、心配かけて…」
木の実はきっちり7時まで働いて、その後、オーナー夫妻の片付けまで手伝った。それでもまだ8時にしかならない。
実は、木の実は、昼休みの間にまた新しいネットカフェを探していた。でも、そのネカフェは夜の11時にしか入店できない。11時以降の入店なら値段がグンと安くなるからだ。
木の実は外へ出ると、“モナンジュ”の入っているビルの正面にある、更に豪華なビルに吸い込まれるように入っていった。ただどんなビルか見学するために、何の気なしに入ったのが失敗の元だった。
そのビルは、レストランが並ぶフロアとホテルへ続くエレベーターしか動いていないようだ。いや、動いているのかもしれないけれど、一般人はそのエリアにしか入れないようになっている。
スーツケースをゴロゴロ転がす木の実は、セレブの人達の目を引くらしくすれ違う人に必ず二度見された。
木の実はそんな状態にも関わらず、とりあえずレストランの多いフロアへ行く事にした。きっと、値段が高くてどの店にも入れないのは分かっているけれど、でも、このビル内を見学して時間を潰したい。
エレベーターに乗り込んだ木の実は、もうこの時点で場違いな所に来てしまった事を後悔していた。
決して見た目は悪くない方だと思っている。
身長も165cmはあるし、友達からはモデルみたいとも言われた事がある。
でも、今日の格好がまずかった。
ジーンズ生地の幅広のワイドパンツに紺と白のボーダーシャツ、その上によれよれの緑色のカーディガンをはおり、足元は白のコンバースといった具合だ。
絶対、浮いてる…
いや、確実に、浮いてる…
1
お気に入りに追加
49
あなたにおすすめの小説
苺の誘惑 ~御曹司副社長の甘い計略~
泉南佳那
恋愛
来栖エリカ26歳✖️芹澤宗太27歳
売れないタレントのエリカのもとに
破格のギャラの依頼が……
ちょっと怪しげな黒の高級国産車に乗せられて
ついた先は、巷で話題のニュースポット
サニーヒルズビレッジ!
そこでエリカを待ちうけていたのは
極上イケメン御曹司の副社長。
彼からの依頼はなんと『偽装恋人』!
そして、これから2カ月あまり
サニーヒルズレジデンスの彼の家で
ルームシェアをしてほしいというものだった!
一緒に暮らすうちに、エリカは本気で彼に恋をしてしまい
とうとう苦しい胸の内を告げることに……
***
ラグジュアリーな再開発都市を舞台に繰り広げられる
御曹司と売れないタレントの恋
はたして、その結末は⁉︎
モテ男とデキ女の奥手な恋
松丹子
恋愛
来るもの拒まず去るもの追わずなモテ男、神崎政人。
学歴、仕事共に、エリート過ぎることに悩む同期、橘彩乃。
ただの同期として接していた二人は、ある日を境に接近していくが、互いに近づく勇気がないまま、関係をこじらせていく。
そんなじれじれな話です。
*学歴についての偏った見解が出てきますので、ご了承の上ご覧ください。(1/23追記)
*エセ関西弁とエセ博多弁が出てきます。
*拙著『神崎くんは残念なイケメン』の登場人物が出てきますが、単体で読めます。
ただし、こちらの方が後の話になるため、前著のネタバレを含みます。
*作品に出てくる団体は実在の団体と関係ありません。
関連作品(どれも政人が出ます。時系列順。カッコ内主役)
『期待外れな吉田さん、自由人な前田くん』(隼人友人、サリー)
『初恋旅行に出かけます』(山口ヒカル)
『物狂ほしや色と情』(名取葉子)
『さくやこの』(江原あきら)
『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!』(阿久津)
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
『番外編』イケメン彼氏は警察官!初めてのお酒に私の記憶はどこに!?
すずなり。
恋愛
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の身は持たない!?の番外編です。
ある日、美都の元に届いた『同窓会』のご案内。もう目が治ってる美都は参加することに決めた。
要「これ・・・酒が出ると思うけど飲むなよ?」
そう要に言われてたけど、渡されたグラスに口をつける美都。それが『酒』だと気づいたころにはもうだいぶ廻っていて・・・。
要「今日はやたら素直だな・・・。」
美都「早くっ・・入れて欲しいっ・・!あぁっ・・!」
いつもとは違う、乱れた夜に・・・・・。
※お話は全て想像の世界です。現実世界とはなんら関係ありません。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
月城副社長うっかり結婚する 〜仮面夫婦は背中で泣く〜
白亜凛
恋愛
佐藤弥衣 25歳
yayoi
×
月城尊 29歳
takeru
母が亡くなり、失意の中現れた謎の御曹司
彼は、母が持っていた指輪を探しているという。
指輪を巡る秘密を探し、
私、弥衣は、愛のない結婚をしようと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる