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一章 第一部
一章 第一部 それはまるで、ありきたりな主人公のようで
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「ふぅ…… これでなんとかなる、かな?」
ようやく二人をテントの中に運び終え、僕はほっと一息をついた。
しかし、成り行きとはいえとんでもないことになったな……
この世界に来て二日目。ようやくこの変な感覚になれてきたと思ったら、この状況だ。
まさか一夜にしてあれだけの死体を見るとは……
なんだか、あちこちの感覚が麻痺しているような感じがする。
ゲームをやっている感じ、とでも例えればいいのだろうか。
全くこの世界に感情移入できていなかった。
「……めんどくさいし、今日はここで寝るかな……」
アヌビスが用意したテントはもう一つあったが、僕はもう疲労困憊で、とてもあの作業をまた繰り返せるとは思えなかった。
毛布は無いが、今日は意外と暖かい。
このまま外で寝ても、デュラハンの身体ならきっと大丈夫だろう。
僕は適当な地面に横になり……
「『〈ライトニング・エッジ〉』!」
アヌビスの大声と、何かが爆発するような衝撃で、僕は慌てて飛び起きた。
なんだ? なにがあったんだ?
空は少しずつ、群青色から明るくなってきていた。
「あ、起こしちゃいましたか……」
状況がよく飲み込めずおろおろする僕に、アヌビスが気付いた。
手をパンパンと払いながら僕の方へ向かってくる。
「な、何してたんだ……?」
煤けたようなアヌビスの姿に、僕は少し心配になる。
「そうですね…… ちょっとしたバトル、でしょうか? RPGで言えば『野生のモンスターが現れた!』ですね。死体につられてやってきちゃったみたいです」
ここはちょっと危ないですねぇ…… とアヌビスは言う。
しかし、その言葉を聞いたとき、僕の視線はアヌビスが先ほどまでいた辺りにある黒焦げの塊に釘付けになっていた。
「なあアヌビス…… そのモンスターっていうのは、もしかしてあれか?」
少し手が震える。
それでも僕はアヌビスの後方にある黒焦げの塊をしっかりと指さした。
「え? あ、はい、そうです。えっと…… 『ヘビモス』っていうやつらしいですよ?食べると結構美味しいとか。ま、あそこまで焦げてたんじゃ、意味ないですけどね」
こともなげに言うアヌビス。
しかし、その『ヘビモス』とやらは…… 異常に大きかった。
黒焦げの死体を遠くから見るだけでも、アヌビスの身長のゆうに七、八倍はありそうだった。
「おまえ…… あんなのと戦ったのか?」
「そうですが? あ、別に私は……」
そうか…… まあ、それしか考えられないよな…… だったらきっと昨日も……
「……情けないよ」
「え?」
「自分が情けない。アヌビス一人に何もかも頼ってたんじゃ、駄目だよな」
少し寝て疲れが取れたのか。
それとも、死体を沢山見たショックと、アヌビスヘの感謝と背徳の念が合わさったのか。
「いえ…… べつに時雨さんは何も……」
「いや、最低限のことはできるようになりたい。自分の身を守ることも、他人の身を守ることも。だから…… アヌビス、僕に…… 魔法を教えてくれ」
僕は、そんな柄じゃ無いのに。
なんだか、ありきたりな少年漫画のような台詞を吐いてしまった。
まあ、それはそれで悪い気分にはならなかったけど。
ようやく二人をテントの中に運び終え、僕はほっと一息をついた。
しかし、成り行きとはいえとんでもないことになったな……
この世界に来て二日目。ようやくこの変な感覚になれてきたと思ったら、この状況だ。
まさか一夜にしてあれだけの死体を見るとは……
なんだか、あちこちの感覚が麻痺しているような感じがする。
ゲームをやっている感じ、とでも例えればいいのだろうか。
全くこの世界に感情移入できていなかった。
「……めんどくさいし、今日はここで寝るかな……」
アヌビスが用意したテントはもう一つあったが、僕はもう疲労困憊で、とてもあの作業をまた繰り返せるとは思えなかった。
毛布は無いが、今日は意外と暖かい。
このまま外で寝ても、デュラハンの身体ならきっと大丈夫だろう。
僕は適当な地面に横になり……
「『〈ライトニング・エッジ〉』!」
アヌビスの大声と、何かが爆発するような衝撃で、僕は慌てて飛び起きた。
なんだ? なにがあったんだ?
空は少しずつ、群青色から明るくなってきていた。
「あ、起こしちゃいましたか……」
状況がよく飲み込めずおろおろする僕に、アヌビスが気付いた。
手をパンパンと払いながら僕の方へ向かってくる。
「な、何してたんだ……?」
煤けたようなアヌビスの姿に、僕は少し心配になる。
「そうですね…… ちょっとしたバトル、でしょうか? RPGで言えば『野生のモンスターが現れた!』ですね。死体につられてやってきちゃったみたいです」
ここはちょっと危ないですねぇ…… とアヌビスは言う。
しかし、その言葉を聞いたとき、僕の視線はアヌビスが先ほどまでいた辺りにある黒焦げの塊に釘付けになっていた。
「なあアヌビス…… そのモンスターっていうのは、もしかしてあれか?」
少し手が震える。
それでも僕はアヌビスの後方にある黒焦げの塊をしっかりと指さした。
「え? あ、はい、そうです。えっと…… 『ヘビモス』っていうやつらしいですよ?食べると結構美味しいとか。ま、あそこまで焦げてたんじゃ、意味ないですけどね」
こともなげに言うアヌビス。
しかし、その『ヘビモス』とやらは…… 異常に大きかった。
黒焦げの死体を遠くから見るだけでも、アヌビスの身長のゆうに七、八倍はありそうだった。
「おまえ…… あんなのと戦ったのか?」
「そうですが? あ、別に私は……」
そうか…… まあ、それしか考えられないよな…… だったらきっと昨日も……
「……情けないよ」
「え?」
「自分が情けない。アヌビス一人に何もかも頼ってたんじゃ、駄目だよな」
少し寝て疲れが取れたのか。
それとも、死体を沢山見たショックと、アヌビスヘの感謝と背徳の念が合わさったのか。
「いえ…… べつに時雨さんは何も……」
「いや、最低限のことはできるようになりたい。自分の身を守ることも、他人の身を守ることも。だから…… アヌビス、僕に…… 魔法を教えてくれ」
僕は、そんな柄じゃ無いのに。
なんだか、ありきたりな少年漫画のような台詞を吐いてしまった。
まあ、それはそれで悪い気分にはならなかったけど。
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