白薔薇黒薔薇

平坂 静音

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変わる世界 四

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「そ、そんな……」
 自分が思っていた以上にブルーム家はもろかったようだ。
「ベルトにもそのことを手紙で報告しておいたの。彼女も、もうすぐ辞めるつもりだったそうだから、異論はないみたい」
(わたしはどうなるのよ?)
 マルゴはやや焦りながら訊いてみた。
「そ、それじゃ、わたしはこのままこのお屋敷で働くのですか?」
 ヴァイオレットはそこですこし眉を寄せた。
「実をいうと、旦那様は、あなたをシャピー家、つまりフランソワの実家で使ってもらえないかと思っていらっしゃったの。でも、シャピー家では人手は足りていると言われて、それならだれか村の若者と結婚させようかと考えていらっしゃるわ。それが無理なら、もうすこし世のなかが落ち着いたら、どこかのお屋敷で使ってもらえないかと」
 聞いていてマルゴは身体から血が引いていく想いがした。どこまでいっても自分は主の意向で好き勝手にされる使用人だったのだ。
(わかってはいたことだけれど……でも、そんなのあんまりだわ。せめて、わたし自身に訊いてくれたら……)
 フランソワとの昨夜の一件がなければ、そういうものだと納得できたかもしれないが、今のマルゴにはヴァイオレットの言うことはひどく不条理なことに思える。
(わたしはクララの身代わりになって、これだけ尽くしたのに……。ブルーム家のために、旦那様やクララのために、わたし自身をさしだしたのに……、それなのに、ひどいわ、さっさとわたしを放り出そうというの?)
 さすがにそんな想いが顔に出ていたのだろう。ヴァイオレットは眉をひそめた。
「気に入らないの?」
「……嫌です。わたしはずっとブルーム家にいたいです」
 ますますヴァイオレットは眉をひそめた。それを見た瞬間、マルゴの胸内でちいさな火が爆ぜた。
(なによ、偉そうに。自分だって使用人じゃないの)
 思えば、ヴァイオレットだとて使用人の一人で、使われている立場という点ではマルゴと変わらないはずだ。だが、教育のある彼女はいつも尊大で、ベルトがそんな彼女を憎々しく思っていたのが今のマルゴはよくわかる。
 マルゴは言わずにいられなくなった。
「わ、わたしはお屋敷のために精一杯のことをしました。それぐらいのことを求めても罰は当たらないと思います」
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