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平坂 静音

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花の都 二

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「本当は、師範の講座を受けて、小学校の教師になるつもりだったのだけれど……、教師になるには帝政への忠誠を宣誓しなければならなくて、それが嫌であきらめたのよ」
 はあ……、とマルゴは呟いていた。帝政への忠誠を強要されるのが嫌だというヴァイオレットは、やはり自分とは違う人種なのだと実感する。
 ブルーム氏が帰省したとき連れてくる客人たちや、村長や村の大人たちが集まったときに、帝政がどうの、共和制がどうのと話しているのを耳にすることがあるが、マルゴにはさっぱり意味のない話だった。王様が偉いのか、皇帝が偉いのか、そんなことはマルゴにはどうでもいいことだった。親や教師や、大人たちが、そうしろと言えば、それに従うだけだ。
 マルゴがずっと幼かったころ、年上の子どもたちが〝死刑台ごっこ〟という遊びをしていたことがあった。古びた林檎の木箱のうえに立ち「共和制万歳!」と叫んで笑いながら飛び降りる他愛もない遊びで、幼かったマルゴはそのとき初めて共和制という言葉を耳にしたが、それが具体的にどういうものを指すのかさっぱりわからないまま成長した。マルゴの田舎での生活に、共和制だろうが帝政だろうが、そんなものはなんの意味もなかったのだ。
 だが、ヴァイオレットのいつもは冷たく薄く青い目が、今は熱っぽく輝いている。
 今、帝政が終わろうとしているらしい。そして、それはヴァイオレットにとっては興奮すべきことなのだろう。
 自分には理解できない世のことわりについて情熱を持っている年長の家庭教師に、あらためてマルゴは奇妙なものを感じ、あらためて、この人は自分とは違う世界の人なのだと感じた。だが、
「今日はもう無理でしょうけれど、明日には旦那様に会えるわ」
 ヴァイオレットがブルーム氏のことを口にするとき、わずかに薄桃色の唇が濃く染まる気がするのを感じて、マルゴは先ほどとはまた違った奇妙な違和感を彼女にたいして持った。
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