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夜を迎えて 一
しおりを挟む「コンスタンス、悔いはないわね?」
ガブリエルの声にコンスタンスは頷いた。
「ええ。ないわ。こうするって決めたの」
コンスタンスは、薄手の赤色のドレス姿の自分を鏡のなかに見た。
今日が初めてということで、特別念入りに着付けや化粧を手伝ってくれたガブリエルが、感心したように鏡のなかのコンスタンスを見ている。化粧をほどこしたコンスタンスの顔は、別人のように大人びて見える。
今ならまだ間に合う、という声が頭のなかで響くが、コンスタンスはもはや迷わなかった。
奇妙な意地のようもなものが胸にわくのだ。このままここを出るわけにはいかない。
いや、出るにはやはり遅すぎる。
わずか三ヶ月とはいえ、すでに娼館の風に染まってしまっている自分をコンスタンスは自覚していた。
なによりペリーヌのことが頭から離れない。あんな目で自分を睨んできたペリーヌのことを忘れて、別の道を行くことは今のコンスタンスにはできない。
「あら、綺麗じゃない」
大部屋に入って来たオーレリィーが口笛を吹く。だが、そのアクアマリンの瞳がおだやかでないことをコンスタンスは悟っていた。
オーレリィーだけではなく、アントワネットやカミーユが自分を見る目は、縄張りを荒らそうと新たに入ってきた雌猫にたいする警戒の目だ。きっとこれから自分は彼女たちに疎まれるだろう。
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