メゾン・クローズ 闇の向こうで見る夢

平坂 静音

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 持つ者と持たざる者で分けられてしまった時代と世界の真ん中にいれば、なにか少しでも売るものがあれば、それを金に換えたいと思うのは人間の本能だろう。

 まして、このころは街には以前はなかった百貨店デパートが並び、若い女性の物欲をあおるような宝石、ドレス、靴、帽子、ハンカチ、化粧品と、あらゆるものがきらびやかに店頭に並び売りだされ、それにつられるように女たちの欲望も燃え立ってきた時代である。物があふれ過ぎ始めた時代でもあったのだ。

「街で小金持ちを一人や二人ひっかけるよりも、いっそこの館で働いたほうがあんたにとっていいかもよ」

 コンスタンスはすぐに言葉を返せないでいた。

「コンスタンス、あんただったら間違いなくこのメゾン・クローズ『白猫』の一番になれるわよ。お針子でもして清く正しく貧乏に生きる? それともこの『白猫』の女王になる? どっちを選ぶ?」

 ガブリエルが魅惑的な碧の目を光らせて甘い誘惑の言葉をつむぎだす。

 コンスタンスは女メフィストの目に魅かれていく自分を自覚していた。

「どう考えても、あんたの器量じゃ、清く正しく生きるのは無理よ。男がほうっておかないもの。でも、そこらへんのつまらない男で満足できる? ここの客は名士ばかりよ」

 コンスタンスは誘惑に抗えなくなっていた。

「すこし、考えさせて……」

 そう言うのが精一杯だった。
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