メゾン・クローズ 闇の向こうで見る夢

平坂 静音

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宴たけなわ 一

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(怒っているのかしら……?)

 コンスタンスは気になったが、この場では何気ない顔をしていた。

(あとで説明しよう)

 オーレリィーは狙った客の側に居座り、カミーユも馴染みらしい客と座ってお喋りしている。その反対側に座っているのはカトリーヌことクリスチャンである。コンスタンスは内心唸った。こうして見ていると女にしか見えない。それもこのなかでは一番可憐で初々しい乙女のようだ。

 ベルとナナは外国人好みらしい客をはさむようにして、ワインやシャンペンを飲んでいる。その客は「両手に花だな。ギニアの黒蘭とギリシャの白薔薇だ」とご満悦である。アントワネットの姿は見えない。煙草の煙が幕のように広間にあふれ、そこはだんだん別世界の様相をかもしだしてきた。

「今宵一晩、皆様、どうぞ夢の世界へ」

 広間の中央でそう歌うように響いたのはガブリエルの声のようだ。

 やがてシャンデリアの明かりが落とされ、四方に灯された燭台の灯りだけになった。小さな炎のもたらす効果は抜群で、広間は幻想的な雰囲気に満たされていく。

 慣れない酒を飲んだせいでコンスタンスは頭が痛くなってきた。カルロスが飲んでいるのはアニス酒で、付き合って飲んでみたが、これは少しコンスタンスには癖がつよい。

 ぼんやりした頭で周囲を見回すと、もうすっかり出来上がっている客や娼婦もおり、驚いたことにあるカップルは長椅子のうえでからみあっていた。客の方も女の恰好をしているので、傍目にはひどく背徳的な光景がくりひろげられている。それを見て笑っていた娼婦が、客にしなだれかかる。

 蓄音機が奏でるのんびりした音楽が、かえってこの場を淫らに煽情的に盛り上げていく。からみあっているカップルに、別の客が加わっていく。一人の女に二人の客がからみつくこともあれば、一人の客に二人の女がからみつくこともある。まさに現代のソドムとゴモラの光景である。

 さすがに若いコンスタンスは気圧され、怖くなってきた。

 背後からカルロスの手が伸びてきて、コンスタンスはますますあわてた。

「だ、駄目よ」
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