メゾン・クローズ 闇の向こうで見る夢

平坂 静音

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 昔、十年ほどまえパリで万博で行われたとき、アフリカの原住民を見せ物にする人間動物園というのがあったらしいが、それに群がった観客の気分はこんなものだろうか。そして来年の万博でも自分たちとは肌の色や人種がちがう未開の国の人々を見せ物にする興行がおこなわれることになるのだが、それを悪趣味だとか残酷だとか思う感性は、残念ながらこの時代の先進国に生まれ育ったコンスタンスは持ち得なかった。誰も教えてくれなかったのだ。

 今もコンスタンスは自分とはまったく違う〝異人〟を興味津々で見ていた。

「今宵はようこそメゾン・クローズ『白猫』へ。どうぞ皆様楽しんでください」

 ガブリエルのその声にパーティーは始まった。

 歓声と拍手、香水の匂いにあふれた広間で〝貴婦人〟たちは顔に仮面をつけていた。昔の仮面舞踏会で貴族たちが使ったもので、手で支柱を持つ型のものであり、その小道具のせいで、いっそうパーティーは芝居の一場面のように非現実的で幻想的に見える。

 仮面舞踏会の夜に貴族たちがこぞって不倫や浮気に走ったのは、おそらくそういった心理作用が働いたからだろう。別の誰かになったようで、いっそう心が軽くなってしまうのだ。もっとも、かつての王制時代の貴族たちはつねにお遊びに浸っていたようだが。

「マダム、ご機嫌いかが?」

「あら~、私はまだマドモワゼルよ」

「**子爵ははいらっしゃらないわね」

「今夜は来れないんですって。奥様に見つかっちゃったのかもね」

「あの、醜女ぶすの奥様?」

「あら、そんなこと言っちゃ駄目よぉ」

 そんな酔っぱらった客たちの軽口が飛び交う。女装した客は十四、五人ほどだろうか。それぞれに娼婦たちがついて馬鹿話につきあっている。

 呆れつつも、いつものようにグラスを乗せた盆を持って広間をまわっていると、いきなり背をたたかれコンスタンスはびっくりした。

「やあ、僕だよ」
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