メゾン・クローズ 闇の向こうで見る夢

平坂 静音

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宴の始まり 一

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 館が宵闇につつまれるころ、馬車の音が響いて客の来訪を告げる呼び鈴が鳴る。

「まぁ、ようこそ。さ、お部屋へどうぞ」

 ガブリエルみずから出迎えに行くと、いきなり客を二階へと案内する。いつもならば、広間でくつろいで、気に入った相手を二階へ連れていくのだが、今夜は様子がちがうようだ。

「今夜はいろいろと趣向がちがうのよ」

 目を見張りつづけているコンスタンスに、キクが小声で説明する。

「コンスタンス、二階へ手伝いに行って」

 オーレリィーに呼ばれて二階へ上がると、彼女はある個室を指差した。

「いい、余計なことはいっさい言っちゃ駄目よ」

 いつになく青い目をきつく光らせ言うオーレリィーにコンスタンスは頷いた。

「失礼します……」

 ドアの向こうの光景を見たコンスタンスは口をあんぐり開けてしまった。

「マダム、とってもお似合いですよ」

 おもねるように鏡台のまえの人物にそう声をかけているのはカミーユである。

 彼女自身も金古美きんふるびの印象的な髪を背に流し、黒いドレスをまとって華やかなに装っており、着付けと化粧を手伝ってやっているらしい。客の。

 そう、鏡に映っているのは、客だった。つい先ほどガブリエルが挨拶していた、背広姿の若い客だったのだ。

 コンスタンスは驚愕のあまり入口で立ち尽くしていた。

(こ、これって……、まさか)

「そんなところで突っ立っていないで手伝ってよ」

 カミーユが振り返って、近づいてきたコンスタンスに苦笑を見せて囁いた。

「今夜はこういうパーティーなのよ」

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