メゾン・クローズ 闇の向こうで見る夢

平坂 静音

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十一

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 カルロスは一瞬ふしぎなものでも見るような目をしたが、あっさりと本を手渡し、つづけた。

「ああ、そうかい。けれど、もう来ないかもしれないぜ。あいつは、こういう場所はあまりお好きなようじゃないからね。今日だって嫌々来たようだし」

 どういうわけか、コンスタンスの胸が沈む。その顔を見下ろしながらカルロスが含み笑いを見せる。

「安心しろよ。俺がどうにかして連れてきてやるから」

「え?」 コンスタンスは頬が熱くなり、それをまたカルロスが黒目を陽気にかがやかせて見ている。どうも自分でもうまく説明できない自分の心情を見透かされたようで居心地わるい。

やっこさん、再来週の金曜日にはきっと来るさ。俺が連れてきてやるよ、あのアンリ三世を」

「アンリ三世?」

 アンリ三世――。コンスタンスが歴史で学んだ知識では昔のフランス国王で、アンリ二世とカトリーヌ・ド・メディシスの息子というぐらいだ。きょとん、としているコンスタンスにカルロスが説明した。

「ああ。それがクリスチャンの十八番おはこなんだよ。一番うまく演じられる役さ」

 芝居の役のことか。納得したコンスタンスにカルロスは意味ありげに笑った。
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