メゾン・クローズ 闇の向こうで見る夢

平坂 静音

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「避妊具だよ」
 
 不思議そうに凝視しているコンスタンスに、キャロルが笑いながら教えてくれた。

 意味がわからずぽかんとしているコンスタンスにキャロルが滔々とうとうと説明してくれた。仕事をしているときのキャロルは、口調も動作も下町のおかみさんのようできびきびして乱暴である。

「子どもが出来ないようにする道具のことだよ。性病の予防にもなるんだ。たいていは動物の腸でできてるんだけれど、これはゴム製だね。たまにいるんだよ。酒飲んで盛り上がって、広間でやっちまう客が」

「やだ!」

 コンスタンスは気持ち悪さに悲鳴をあげ、それを放り投げていた。

 それ自体もおぞましいが、広間でそういう行為を行うなどということがあるのだろうか。まるでローマやギリシャの乱交ではないか。コンスタンスはおぞましさに血の気がひく想いがした。

 そんなコンスタンスを見ながらキャロルはまた笑う。

「そんなんでいちいち驚いていたら、ここで勤まらないよ。あ、ほら、ここにも落ちている」

 そう言ってキャロルが腰を曲げてソファの近くから拾いあげたのは、小さな赤茶けた綿わたの塊りのようなものだった。太い糸の網につつまれており、キャロルが糸の端をつまんでそれを揺らす。水分を含んでいるのか、重みが感じられる。

「なに、それ?」

「海綿。これも避妊具。こっちの方が安いから、たいていの娼婦はこれを使っているんだよ。それに客は夢中になると避妊や病気のことなんて考えなくなるから、女の方で用心しなきゃね」

 コンスタンスは目をぱちぱちさせた。これでどうやって避妊が出来るのだろう。

「つまり、これを中へ入れるんだよ」

 コンスタンスは無言でその球体の形をした海綿を見ていた。

 先ほどのゴムは男性がつける避妊具で、この海綿は女性がつける避妊具なのだ。

 つくづくとんでもない場所へ来てしまった。

「とはいっても、確実に避妊できるとは言えないらしいけれどね。まぁ、何もしないよりはマシだろうけど」
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