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十
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ビュルの得意客だ。マダムはほっとした顔になって鍵をあけた。
「今晩は、マダム」
「まぁ、ようこそ、オードラン様。あいにく今ビュルは二階におりまして。よろしければ他の子を呼びますが」
二階でビュルはべつの客といるようだ。マダムは小声でコンスタンスに囁いた。
「ブリジットをすぐ起こしてちょうだい」
コンスタンスはあわてて長椅子でまどろんでいるブリジットを起こしに行った。
「さ、こちらへ。どうぞ、どうぞ」
商売用の愛想のいいマダムの声がそこで途切れた直後、数人の足音が響いて辺りの空気が一瞬にして変わった。
コンスタンスが玄関を見たときには、そこに五、六人の制服姿の警察官がいた。
マダムは真っ青だ。コンスタンスも息を飲んだ。
「オードランさん、これは……?」
オードランは帽子を取ると、黒髭をかすかに揺らして声を発した。
「いや、自己紹介がおくれてすまない。ここでは本名を名乗らないのが礼儀だったからね。あらためて自己紹介させてもらうよ。私はパリ警察のマセ刑事。マダム・オベール、売春斡旋の容疑で逮捕する」
それから館は大変な騒ぎになった。
階上へ走っていく警察官が次々とドアを開ける音、女たちの悲鳴、男たちの怒鳴り声。
それもしばらくすると静まり、客たちはばつの悪い顔であわてた様子で階段を下りていく。客は名前と住所を言うことで帰ることを許されたが、女たちはそうはいかない。
「ひどいわ!」
「はなしてよ!」
「うるさい、さっさと来い、あばずれどもが」
コンスタンスとブリジットは広間で呆然と成り行きを見ているしかない。
ふとマダムに目をやると、その横顔には焦燥も不安もなく、どこか腹を据えたように唇を噛みしめている。
はたにいるブリジットは警官たちに指示を出しているオードランを睨みつけている。
「オードランさん、ひどいわ、あんた刑事だったのね! 騙したのね!」
「今晩は、マダム」
「まぁ、ようこそ、オードラン様。あいにく今ビュルは二階におりまして。よろしければ他の子を呼びますが」
二階でビュルはべつの客といるようだ。マダムは小声でコンスタンスに囁いた。
「ブリジットをすぐ起こしてちょうだい」
コンスタンスはあわてて長椅子でまどろんでいるブリジットを起こしに行った。
「さ、こちらへ。どうぞ、どうぞ」
商売用の愛想のいいマダムの声がそこで途切れた直後、数人の足音が響いて辺りの空気が一瞬にして変わった。
コンスタンスが玄関を見たときには、そこに五、六人の制服姿の警察官がいた。
マダムは真っ青だ。コンスタンスも息を飲んだ。
「オードランさん、これは……?」
オードランは帽子を取ると、黒髭をかすかに揺らして声を発した。
「いや、自己紹介がおくれてすまない。ここでは本名を名乗らないのが礼儀だったからね。あらためて自己紹介させてもらうよ。私はパリ警察のマセ刑事。マダム・オベール、売春斡旋の容疑で逮捕する」
それから館は大変な騒ぎになった。
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「オードランさん、ひどいわ、あんた刑事だったのね! 騙したのね!」
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