メゾン・クローズ 光と闇のはざまで

平坂 静音

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 聞き慣れない声にコンスタンスはその声の主を目でさがし、一瞬息を飲む。

「ああ、いいわよ。ご苦労様、コリンヌ」

 階段を下りて来たコリンヌと呼ばれた少女を見て、ますますコンスタンスは目を大きく見開いた。

 今まで店で見たことのない少女であったが……、少女というよりも、まだ本当に女の子なのだ。

 歳は十歳は過ぎているのだろうかと疑いたくなるほどである。ちいさなかぼそい身体に、かすかにすれちがった瞬間見た彼女の黒い目はあどけないが、いったい数分前までのその瞳に何を映していたのか。少女の出てきた部屋で行われたことを想像してコンスタンスは眩暈めまいがしてきた。

 コンスタンスを驚かせたのは少女の幼さもさることながら、その装いである。

 ひどく薄汚れたボロボロの服をまとっており、足は裸足でサイズの合わない大きめの靴を履いているが、その靴もおそらくは捨ててあったのを拾ったものだろう。しかも彼女が横を通り過ぎたあと、黒いお下げ髪からは嫌な臭いがした。

「せめてお風呂に入れてからにすればいいのに……」

 ついコンスタンスがそんなことを呟くと、マダムは苦笑した。

「あのままが客の好みなのよ」

 コンスタンスは言葉がない。

屑屋くずやで働いている子を、櫛も入れず風呂にもいれず、仕事着のままで、というのがお客の注文なの」

 コンスタンスの表情に何を思ったのか、マダムは苦笑しつつ説明した。

「世のなかにはそういう趣味の男もいるのよ。貧民街の哀れな少女というのに一種の幻想を持っているんでしょうね。『マッチ売りの少女』や『レ・ミゼラブル』のシャーロットを一夜の恋人に持ちたいっていう金持ちの男もいるのよ」

「そんな……」

 貧しく哀れな少女を助けてやりたい、守ってやりたいと思うのではなく、性欲の対象として執着する男が存在するのかと思うと、コンスタンスは吐き気をおぼえた。

「ひどい。……いったいどういう客なんですか?」

 ふふふふふ――。マダムは笑った。

「貴族よ。名前は言わないけれどね。趣味が趣味だから、一流のメゾン・クローズじゃなかなか好みの子を調達できないんで、うちあたりの、下町が近い店に来るのよ」
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