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 閉じられた馬車内の闇に女性の泣き声がひびいた。先ほど警官に抗議していた女性のようだ。

「うるさいね! ちょっと、あんた静かにしてよ!」

 街娼の女がいらだたしげに言う声が黒一色の世界にとどろき、怒鳴られた女性の泣き声はすこし低くなった。

「とんでもないことになったわ……」

 呆然と小声で言うリジュロンの声も震えている。

「大丈夫よ……、ちゃんと警察署で説明すれば解ってもらえるわ」

 コンスタンスは軽く考えていた。説明すればすぐ誤解はとけ釈放されると。そのときはそう思っていた。




 そのあとの経験は、コンスタンスのみじかい今までの人生で一番最悪のものだった。

 留置場に押しこめられ、かなり待たされた揚げ句、つれて行かれた先でまた待たされる。

 それでも、係官が言うには、独房で一泊せずにすんだだけまだおまえたちは運がいい、のだそうだ。

 制服私服の警官がせわしげに行きかう薄暗い廊下をすすむと、廊下の粗末な木のベンチに座らされ、ここでまた待たされた。しばらくしてドアが開くと中年の男が女たちを呼び入れる。ドアには「風紀課」という木のプレートがある。

「名前と住所を書くように」

 課長代理と呼ばれた制服すがたの男が尊大な仕草で机のうえの書類を指さした。

「私は娼婦じゃありません! 夜学からの帰りだったんです」  

 たまりかねたようにリジュロンが叫び訴えるのを、男ははめんどくさそうにこけのような濁った緑の目で睨みつけた。

「ああ、ああ、わかった、わかった。とりあえず名前と住所を書いて」

「私だって娼婦じゃありません。子どもの薬を買いに出ただけなんです!」

 並んでいた例の女性も訴えたが、係官たちは誰もまともに聞こうとせず、さっさと書けと書類をさしだす。

「おまえはたちはつるんで売春していたのか?」

 じろり、とリジュロンと並んでいたコンスタンスを睨む係官に、コンスタンスはたまりかねて叫んだ。
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