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八
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「悲しまないで、と言っても無理だけれど、でもね、世のなかにはそんな話もあるんだよ。マリー・アントワネットだってルイ十六世以外の男と浮き名を流したんだし」
革命で処刑された悲劇の王妃がスウェーデン貴族と浮気していたことは有名だ。
「ルイ十三世の妻であるアンヌ王妃だってイギリス貴族のバッキンガム公と浮気したというし、王の母親のマリー・ド・メディシスは実の息子より愛人を取って後に幽閉された。ルイ十世の王妃マルグリットなんて、別の男と散々遊んでこれも幽閉されて、芝居のネタになったぐらいなんだし」
王妃マルグリットが不倫のすえに王の怒りをかって塔に幽閉された話は、作家のアレクサンドル・ドュマによって戯曲化されこれもまた有名だ。
だがそんな昔話を持ち出されてもなんの慰めにもならず、コンスタンスは苦笑いするしかない。
芝居や小説のネタになるようなドラマティックな生き方をした女性と、自分が母と呼んだ女性の人生はけっして同列にできるものではない。
母マリーには、あくまでも清く優しい母であって欲しかったのだ。
平凡で慎ましやかで、世間の噂になることも語り草になることもなく、名もなき市井の女として生きて娘の自分を愛して欲しかった。それは、そんな大それた願いだったろうか。
今でもかすかに記憶にのこる母は、家のなかをいつも清潔にたもち、焼き菓子を作り、可愛いドレスを繕ってくれた、幼児が理想とする聖母そのものだった。
幼い頃、母マリーが自分を愛してくれたことはコンスタンスにとっては真実だ。血のつながりがなくても、それは子どもの本能でわかる。
(ママン……どうして、そんなジゴロみたいな男と付き合ったの? パパへの復讐だったの?)
母としてではなく、一人の年長の女性に対して持った疑問だった。
「それでね……、その記事を書いた奴にたのんで調べてもらったんだけれど、そのマリーさん、今はマルセイユにいるみたい……」
クレオは歯切れわるく言う。
エマの言葉が耳によみがえってくる。
本当にマルセイユの場末の売春宿にマリーはいるのだろうか。とういて信じらない。
「そ、そこで……何をしているんですか?」
「宿屋の手伝いみたいなことをしているって、ジャック……その記者は言っていたけれど」
革命で処刑された悲劇の王妃がスウェーデン貴族と浮気していたことは有名だ。
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だがそんな昔話を持ち出されてもなんの慰めにもならず、コンスタンスは苦笑いするしかない。
芝居や小説のネタになるようなドラマティックな生き方をした女性と、自分が母と呼んだ女性の人生はけっして同列にできるものではない。
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