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三
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「奥様……は、わからないけれど、カルロスっていう人は起きているわ」
カルロスの名に少女の小麦色のすこやかそうな頬がやや赤らむ。
「彼って、素敵な人ね。ちょっと不思議なところあるけれど」
はにかむように言う。その仕草があまりにも純情そうで、コンスタンスはよせばいいのに余計なことを言ってしまった。
「あなたカルロスの知り合い? 言っておくけれど、彼に近づいちゃ駄目よ」
カルロスは間違いなくジゴロである。コンスタンスもそういう男の話を聞いたことがある。この頃、よく駅に出没し、田舎から出てきたばかりの世間知らずの若い娘にその手の仕事を紹介することを生業としている男である。
「え……? どうして?」
少女は薄青の目をぱちくりさせる。どこかアガットを思い出させる無垢で初心な表情に、コンスタンスはますます余計なおせっかいを焼かずにいられない。
「あなた、なんていう名なの?」
「リジュロンよ。友達はリジュって呼ぶけれど」
「リジュロン、齢は幾つなの?」
「十六よ」
コンスタンスと同い歳である。だが、今のコンスタンスからはひどく幼げに見える。
コンスタンスは咳払いをして背をそらした。
「彼は悪い男よ。下手にかかわったら、あなたも悪い道に引きずり込まれてしまうかも」
「まさか」
リジュロンは笑った。笑うとますますアガットに似て見える。
「本当よ。第一、あなた、あの家がどういう家か知っているの?」
「え? オベール奥様のお家でしょう? 船の船長だった旦那様は亡くなられて、今は未亡人の奥様が一人で暮らしていらっしゃるって。ときどき親戚のお嬢さんや甥のカルロスが遊びに来ているって聞いたわ」
リジュロンはこの家のことを何も知らないようだ。
「馬鹿ねぇ」
コンスタンスはどういうわけかリジュロンを前にして大人ぶりたい欲求にかられてきた。
カルロスの名に少女の小麦色のすこやかそうな頬がやや赤らむ。
「彼って、素敵な人ね。ちょっと不思議なところあるけれど」
はにかむように言う。その仕草があまりにも純情そうで、コンスタンスはよせばいいのに余計なことを言ってしまった。
「あなたカルロスの知り合い? 言っておくけれど、彼に近づいちゃ駄目よ」
カルロスは間違いなくジゴロである。コンスタンスもそういう男の話を聞いたことがある。この頃、よく駅に出没し、田舎から出てきたばかりの世間知らずの若い娘にその手の仕事を紹介することを生業としている男である。
「え……? どうして?」
少女は薄青の目をぱちくりさせる。どこかアガットを思い出させる無垢で初心な表情に、コンスタンスはますます余計なおせっかいを焼かずにいられない。
「あなた、なんていう名なの?」
「リジュロンよ。友達はリジュって呼ぶけれど」
「リジュロン、齢は幾つなの?」
「十六よ」
コンスタンスと同い歳である。だが、今のコンスタンスからはひどく幼げに見える。
コンスタンスは咳払いをして背をそらした。
「彼は悪い男よ。下手にかかわったら、あなたも悪い道に引きずり込まれてしまうかも」
「まさか」
リジュロンは笑った。笑うとますますアガットに似て見える。
「本当よ。第一、あなた、あの家がどういう家か知っているの?」
「え? オベール奥様のお家でしょう? 船の船長だった旦那様は亡くなられて、今は未亡人の奥様が一人で暮らしていらっしゃるって。ときどき親戚のお嬢さんや甥のカルロスが遊びに来ているって聞いたわ」
リジュロンはこの家のことを何も知らないようだ。
「馬鹿ねぇ」
コンスタンスはどういうわけかリジュロンを前にして大人ぶりたい欲求にかられてきた。
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