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つまり、ルシアのネックレスを奪おうとして、逆に彼女が手にしていた刃物で顎を切られたということでございます。
マリアは複雑な顔になっておりました。下女が貴族の娘であるフランセスカを切りつけるなどあってはならないことではございますが、状況を考えるとかならずしもルシアだけを責めるわけにもいかないのでございましょう。わたくしも同じように思っておりますと、もっと率直にベアトリックスが意見を述べました。
「でも……それは、あんたもいけないんじゃないの、フランセスカ? いくら疑わしいとはいっても、眠っているときにこっそり身に付けているものを奪おうなんて」
「だ、だから、あれは絶対に盗品なのよ。皆はあれを見てないからそんなふうにあの娘の肩を持つのよ。あのものすごいダイヤモンドを見てしまったら、絶対に疑うわ。あれは一国の王女が、いいえ、王妃か女王が持つべきものよ。あんな汚い小娘が持っていていいものじゃないわ!」
爛々と蝋燭のあかりに緑の目を燃やすフランセスカは正気とは思えませんでした。少し怖い御伽噺に聞くように、まるでダイヤモンドに魂をうばわれてしまった狂女のようでございます。
「と、とにかく今夜は遅いから、明日マヌエル夫人に報告してみるわ。あなたがそこまで言うのなら、ルシアを呼んで話を聞いたほうがいいかもしれないわね……」
フランセスカをなだめるためにマリアは酸っぱそうな顔をしながらそう言いましたが、その水色の瞳にはかすかに嫌悪がにじんでおります。フランセスカもさすがに侍女たちの束ねとなるマリアの、自分を快く思わぬ態度を悟って口をつぐみました。どう考えても貴族の令嬢が夜半に下働きたちの寝所におもむき、寝ている下女の持ち物を奪おうなどという行為は狂気じみております。
マリアは複雑な顔になっておりました。下女が貴族の娘であるフランセスカを切りつけるなどあってはならないことではございますが、状況を考えるとかならずしもルシアだけを責めるわけにもいかないのでございましょう。わたくしも同じように思っておりますと、もっと率直にベアトリックスが意見を述べました。
「でも……それは、あんたもいけないんじゃないの、フランセスカ? いくら疑わしいとはいっても、眠っているときにこっそり身に付けているものを奪おうなんて」
「だ、だから、あれは絶対に盗品なのよ。皆はあれを見てないからそんなふうにあの娘の肩を持つのよ。あのものすごいダイヤモンドを見てしまったら、絶対に疑うわ。あれは一国の王女が、いいえ、王妃か女王が持つべきものよ。あんな汚い小娘が持っていていいものじゃないわ!」
爛々と蝋燭のあかりに緑の目を燃やすフランセスカは正気とは思えませんでした。少し怖い御伽噺に聞くように、まるでダイヤモンドに魂をうばわれてしまった狂女のようでございます。
「と、とにかく今夜は遅いから、明日マヌエル夫人に報告してみるわ。あなたがそこまで言うのなら、ルシアを呼んで話を聞いたほうがいいかもしれないわね……」
フランセスカをなだめるためにマリアは酸っぱそうな顔をしながらそう言いましたが、その水色の瞳にはかすかに嫌悪がにじんでおります。フランセスカもさすがに侍女たちの束ねとなるマリアの、自分を快く思わぬ態度を悟って口をつぐみました。どう考えても貴族の令嬢が夜半に下働きたちの寝所におもむき、寝ている下女の持ち物を奪おうなどという行為は狂気じみております。
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