双珠楼秘話

平坂 静音

文字の大きさ
上 下
67 / 140

月の呪い 四

しおりを挟む
「とりあえず遺体は裏の納屋にでも運ぶといい」
 英風の指示にすぐ男たちが戸板をもってきて、香玉の遺体をのせた。
 こんなときでも、さすがに男の人というものはしっかりしているものだと輪花は感心してしまう。ここに緑鵬りょくほうがいたら、同じようにてきぱきと指示を出せたろうか?
(ええ、緑鵬がいたら、きっと同じようにふるまったはずだわ)
 いつの間にか輪花は、何かにつけて英風と緑鵬を比べてしまう癖がついてしまったようだ。
「香玉がどうしてこんなことになったのかわからないが、すぐにでも村の役所に届けて調べてもらうことにしよう。今夜はさすがに夜遅いから、明朝すぐにだ」
 村の役場は呂家からはかなり離れている。もともと呂家の屋敷自体が村はずれのかなり辺鄙へんぴな場所に位置しているのだ。
「皆はとりあえず持ち場に戻って、各自の仕事をするなり休むなりするがいい」
 使用人たちは英風のその言葉にうなずき、それぞれ散っていった。その表情は興奮や好奇心、嘆きや同情とまちまちだ。
 輪花と桂葉は最後まで英風の側に立っていた。盟宝と桂雲はそれぞれ火玉かぎょく玉蓮ぎょくれんに報告に行ったようで姿が見えない。
「輪花、遺体を最初に見たのは、君だそうだな」
「は、はい」
 ふうむ……。英風は少し考えこむような表情になった。
「明日になったら役人がくわしく調べるはずだが……、香玉には、何か自害しそうな理由があったと思うか?」
「まさか!」
 答えたのは桂葉だが、その言葉には輪花も同感だった。
 とても香玉が自害するような性格には思えない。
「あの女、いえ、あの人は自害するような人じゃないと思います」
 桂葉につづいた輪花も言葉を添えた。
「私も、そう思います……」
 いささか輪花の語尾が弱くなったのは、数日前に厨房で見た桂雲とのいさかいが思い出されたせいだ。
(でも……まさか、あんなことで、香玉が自害するなんてありえないわ)
 英風は首をひねった。
「私の実家の近くでも若い娘が首をくくったことがあったが……」
「げ、原因は何なんですか?」
 好奇心からつい輪花は訊いていた。
「もともと普段から健康がすぐれなかったうえに、好意をいだいていた男が他の女と結婚してしまい、思い詰めてしまったのだろうと母は言っていたが……。もしかして香玉には好いた男でもいたのか?」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

後宮生活困窮中

真魚
ミステリー
一、二年前に「祥雪華」名義でこちらのサイトに投降したものの、完結後に削除した『後宮生活絶賛困窮中 ―めざせ媽祖大祭』のリライト版です。ちなみに前回はジャンル「キャラ文芸」で投稿していました。 このリライト版は、「真魚」名義で「小説家になろう」にもすでに投稿してあります。 以下あらすじ 19世紀江南~ベトナムあたりをイメージした架空の王国「双樹下国」の後宮に、あるとき突然金髪の「法狼機人」の正后ジュヌヴィエーヴが嫁いできます。 一夫一妻制の文化圏からきたジュヌヴィエーヴは一夫多妻制の後宮になじめず、結局、後宮を出て新宮殿に映ってしまいます。 結果、困窮した旧後宮は、年末の祭の費用の捻出のため、経理を担う高位女官である主計判官の趙雪衣と、護衛の女性武官、武芸妓官の蕎月牙を、海辺の交易都市、海都へと派遣します。しかし、その最中に、新宮殿で正后ジュヌヴィエーヴが毒殺されかけ、月牙と雪衣に、身に覚えのない冤罪が着せられてしまいます。 逃亡女官コンビが冤罪を晴らすべく身を隠して奔走します。

変人の姉と、沼に引きずり込まれそうな僕。

草薙ユイリ
ミステリー
「私、知りたがりなんで」――変人気質の13歳の少女、暗狩四折(くらがりしおり)。 自分の弟・翔太をも巻き込まんで事件に手を付け、解決、また手を付け、また解決してゆく。 天才がもたらす、数奇なハウダニット冒険譚! 狂った彼女が、また動き出す―――― (どのエピソードからも読めます。でも最初から読んでほしいです)

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

金色の庭を越えて。

碧野葉菜
青春
大物政治家の娘、才色兼備な岸本あゆら。その輝かしい青春時代は、有名外科医の息子、帝清志郎のショッキングな場面に遭遇したことで砕け散る。 人生の岐路に立たされたあゆらに味方をしたのは、極道の息子、野間口志鬼だった。 親友の無念を晴らすため捜査に乗り出す二人だが、清志郎の背景には恐るべき闇の壁があった——。 軽薄そうに見え一途で逞しい志鬼と、気が強いが品性溢れる優しいあゆら。二人は身分の差を越え強く惹かれ合うが… 親が与える子への影響、思春期の歪み。 汚れた大人に挑む、少年少女の青春サスペンスラブストーリー。

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

リアル

ミステリー
俺たちが戦うものは何なのか

真正なる道のり

etoshiyamakan
ミステリー
神奈川県に出向の刑事と彼を取り巻く警察仲間 のストーリー

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

処理中です...