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月の呪い 四
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「とりあえず遺体は裏の納屋にでも運ぶといい」
英風の指示にすぐ男たちが戸板をもってきて、香玉の遺体をのせた。
こんなときでも、さすがに男の人というものはしっかりしているものだと輪花は感心してしまう。ここに緑鵬がいたら、同じようにてきぱきと指示を出せたろうか?
(ええ、緑鵬がいたら、きっと同じようにふるまったはずだわ)
いつの間にか輪花は、何かにつけて英風と緑鵬を比べてしまう癖がついてしまったようだ。
「香玉がどうしてこんなことになったのかわからないが、すぐにでも村の役所に届けて調べてもらうことにしよう。今夜はさすがに夜遅いから、明朝すぐにだ」
村の役場は呂家からはかなり離れている。もともと呂家の屋敷自体が村はずれのかなり辺鄙な場所に位置しているのだ。
「皆はとりあえず持ち場に戻って、各自の仕事をするなり休むなりするがいい」
使用人たちは英風のその言葉にうなずき、それぞれ散っていった。その表情は興奮や好奇心、嘆きや同情とまちまちだ。
輪花と桂葉は最後まで英風の側に立っていた。盟宝と桂雲はそれぞれ火玉と玉蓮に報告に行ったようで姿が見えない。
「輪花、遺体を最初に見たのは、君だそうだな」
「は、はい」
ふうむ……。英風は少し考えこむような表情になった。
「明日になったら役人がくわしく調べるはずだが……、香玉には、何か自害しそうな理由があったと思うか?」
「まさか!」
答えたのは桂葉だが、その言葉には輪花も同感だった。
とても香玉が自害するような性格には思えない。
「あの女、いえ、あの人は自害するような人じゃないと思います」
桂葉につづいた輪花も言葉を添えた。
「私も、そう思います……」
いささか輪花の語尾が弱くなったのは、数日前に厨房で見た桂雲との諍いが思い出されたせいだ。
(でも……まさか、あんなことで、香玉が自害するなんてありえないわ)
英風は首をひねった。
「私の実家の近くでも若い娘が首をくくったことがあったが……」
「げ、原因は何なんですか?」
好奇心からつい輪花は訊いていた。
「もともと普段から健康がすぐれなかったうえに、好意をいだいていた男が他の女と結婚してしまい、思い詰めてしまったのだろうと母は言っていたが……。もしかして香玉には好いた男でもいたのか?」
英風の指示にすぐ男たちが戸板をもってきて、香玉の遺体をのせた。
こんなときでも、さすがに男の人というものはしっかりしているものだと輪花は感心してしまう。ここに緑鵬がいたら、同じようにてきぱきと指示を出せたろうか?
(ええ、緑鵬がいたら、きっと同じようにふるまったはずだわ)
いつの間にか輪花は、何かにつけて英風と緑鵬を比べてしまう癖がついてしまったようだ。
「香玉がどうしてこんなことになったのかわからないが、すぐにでも村の役所に届けて調べてもらうことにしよう。今夜はさすがに夜遅いから、明朝すぐにだ」
村の役場は呂家からはかなり離れている。もともと呂家の屋敷自体が村はずれのかなり辺鄙な場所に位置しているのだ。
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使用人たちは英風のその言葉にうなずき、それぞれ散っていった。その表情は興奮や好奇心、嘆きや同情とまちまちだ。
輪花と桂葉は最後まで英風の側に立っていた。盟宝と桂雲はそれぞれ火玉と玉蓮に報告に行ったようで姿が見えない。
「輪花、遺体を最初に見たのは、君だそうだな」
「は、はい」
ふうむ……。英風は少し考えこむような表情になった。
「明日になったら役人がくわしく調べるはずだが……、香玉には、何か自害しそうな理由があったと思うか?」
「まさか!」
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「私も、そう思います……」
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