双珠楼秘話

平坂 静音

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姉妹の誓い 四

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「えーと。他の娘はどうするのか、輪花、あんた知らない?」
 男同士の場合は酒を酌み交わすと聞いたことがあるし、武人同士だと短刀で自分の肌を傷つけ、血を舐めあったりもするというが、女同士の姉妹の誓いの場合はどうするのだろう。輪花はかつて塾で聞いた話を必死に思い出そうとしてみた。
「私が聞いた話では、詩句を贈りあったり、持っている物を交換しあったりするそうよ」
 桂葉の瞳がぱっときらめいた。
「じゃ、それにしよう」
 桂葉はふところの内をさぐった。
「こんなのしかないけれど」
 若竹わかたけ色のちいさな袋を取り出した。
「これって、香袋ね」
「もらったものだけれど、私、香は嫌いだから使ってないの。これでよければもらってくれる? その……姉妹の誓いの品として」
「ありがとう。じゃ、私は……」
 一瞬悩んだが、輪花はふところから朱色しゅいろの紐をとおした紺色こんいろ瑠璃るりの玉を取り出した。
「高価なものじゃないの?」
「全然」
 子どもの日にわずかなお小遣いで買った安物で、たしかに高価ではないが、緑鵬りょくほうとともに祭り見物に行った子ども時代の黄金の記憶がこもったものだ。手放すのは痛いが、桂葉との友情の代償だと思えば安いものだ。
「ありがとう。大事にするわ」
 桂葉は嬉しそうに紺瑠璃こんるりの小さな玉を手にとって見つめた。その瞳はあどけない子どものもので、輪花はすこし苦しくなり、奇妙な罪悪感さえわく。
「これで私たちは義姉妹ね」
 桂葉は嬉しそうにつぶやき、輪花はやや照れくさい気持ちになったが、やはり嬉しかった。
(このお屋敷で働くのも、そう悪いものじゃないわ)
 
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