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七
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あくまでもマリア・デ・パディリャは、国内では〝王妃〟あつかいされはいても、キリスト教社会の観点では妾でしかない状況なのですから。それも、この時代の感覚として男子を産んでいない場合はひたすらその立場は脆弱なものなのでございます。
おそらくはアルドンサが愚劣な野心を抱いてしまったのも、その点からでしょう。身分でいえば自分とそう変わらない下級貴族の娘で、妾あがりのくせに、男子を産んでもいないくせに、という妬ましさと蔑みがあったからにちがいありません。
アルドンサにかぎらず、この当時、マリア・デ・パディリャをそんな白い目で柱の影から嫉妬と蔑視を込めてこっそり見ていた人々は少なくなかったはずでございます。とくに女は。
マリア・デ・パディリャが由緒ただしい大貴族の娘や異国の王女というのならまだ納得がいったかもしれませんが、田舎貴族の娘、それも元は侍女で妾だった女が王妃となって百官の礼を受け、血筋や家柄ではずっと勝っている貴族の奥方や姫君たちのうえに君臨するなど、驕慢な貴婦人たちからしたら面白いわけがございません。
勿論、マリア・デ・パディリャは賢い女で傲慢になることもなく謙虚で思いやり深く善良な態度を忘れなかったことでしょうから、彼女に傾倒する貴婦人たちも、これもまた少なくはなかったので、うわべはカスティーリャ宮廷は平和をたもっていられたのでございます。それをあなたは、その愚行ゆえ一時乱してしまわれた。
あなたはパディリャ一族の逮捕を聞いてひどく怒り、すぐさま彼らを解放し、マリア・デ・パディリャのもとへ駆けつけ彼女を慰めたと聞きます。
奸臣たちは処罰され、命令に従っただけの警視総監はお咎めなしだそうで。そして、馬鹿なアルドンサはあなたの怒りを買い、もといた修道院へ戻らざるをえなかったのです。
おそらくはアルドンサが愚劣な野心を抱いてしまったのも、その点からでしょう。身分でいえば自分とそう変わらない下級貴族の娘で、妾あがりのくせに、男子を産んでもいないくせに、という妬ましさと蔑みがあったからにちがいありません。
アルドンサにかぎらず、この当時、マリア・デ・パディリャをそんな白い目で柱の影から嫉妬と蔑視を込めてこっそり見ていた人々は少なくなかったはずでございます。とくに女は。
マリア・デ・パディリャが由緒ただしい大貴族の娘や異国の王女というのならまだ納得がいったかもしれませんが、田舎貴族の娘、それも元は侍女で妾だった女が王妃となって百官の礼を受け、血筋や家柄ではずっと勝っている貴族の奥方や姫君たちのうえに君臨するなど、驕慢な貴婦人たちからしたら面白いわけがございません。
勿論、マリア・デ・パディリャは賢い女で傲慢になることもなく謙虚で思いやり深く善良な態度を忘れなかったことでしょうから、彼女に傾倒する貴婦人たちも、これもまた少なくはなかったので、うわべはカスティーリャ宮廷は平和をたもっていられたのでございます。それをあなたは、その愚行ゆえ一時乱してしまわれた。
あなたはパディリャ一族の逮捕を聞いてひどく怒り、すぐさま彼らを解放し、マリア・デ・パディリャのもとへ駆けつけ彼女を慰めたと聞きます。
奸臣たちは処罰され、命令に従っただけの警視総監はお咎めなしだそうで。そして、馬鹿なアルドンサはあなたの怒りを買い、もといた修道院へ戻らざるをえなかったのです。
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