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十
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今のわたくしのように幽閉され牢獄のなかに身を置いても、欲深いレオノールは、側に仕えていた娘をつかって外の支援者たちと連絡をとろうとしました。
その娘は名家の生まれで、レオノールの息子であるエンリケ様とは婚約の話が形ばかり口にのぼっていたのですが、時勢が変わったためにいったんその縁談は立ち消えになっておりました。ですが、ひとたび消えた婚約話を、レオノールは娘の身内にも黙って勝手にすすめてしまったのでございます。
レオノールはその娘、デ・ビレナを息子の将来の嫁としてあつかい、その娘も愚かなことに乙女の浅はかさで、なにがあろうと自分の夫になる人はエンリケ様ただひとりと決めこんでしまい、それを金科玉条として胸にきざみこみ、未来の姑となるレオノールに盲従し、どうにかして閉ざされた石の牢からおのれの領地や宝石、未来の玉座をとりもどそうと奮闘するレオノールの手助けをするようになり、危険なやりとりの橋渡しをしてしまったのでございます。本当に愚かなことです。
この娘デ・ビレナは有力貴族ヌニェスの親戚にあたるので、その娘がいつ牙をむくかわからぬ庶子エンリケ様の妻となるなどということは、決して御義母上マリア様や王の第一側近であったダルブルケルケの気に入るものではありませんでした。
何よりマリア様がお怒りになられたのは、虜囚の立場におかれて尚尽きることのないレオノールの権力と家門にたいする執着でございます。
囚われ身の、なにひとつ決定権などないはずの女が庶子の息子の結婚を王であるペドロに許可を得ることもなく勝手にすすめるなどということも許せません。
怒ったマリア王妃様とダルブルケルケは、それまではかろうじて許可していたエンリケ様やほかの子どもたちとの手紙のやり取りも禁じ、さらにはレオノールをカルモナ城にうつし、さらに厳しい監視下に置くようになりました。
結果、一度はおさまったかに見えたあなたと異母兄エンリケ様たちの争いはふたたび火を吹き、エンリケ様はセビリアに逃亡されることになったのですね。
その娘は名家の生まれで、レオノールの息子であるエンリケ様とは婚約の話が形ばかり口にのぼっていたのですが、時勢が変わったためにいったんその縁談は立ち消えになっておりました。ですが、ひとたび消えた婚約話を、レオノールは娘の身内にも黙って勝手にすすめてしまったのでございます。
レオノールはその娘、デ・ビレナを息子の将来の嫁としてあつかい、その娘も愚かなことに乙女の浅はかさで、なにがあろうと自分の夫になる人はエンリケ様ただひとりと決めこんでしまい、それを金科玉条として胸にきざみこみ、未来の姑となるレオノールに盲従し、どうにかして閉ざされた石の牢からおのれの領地や宝石、未来の玉座をとりもどそうと奮闘するレオノールの手助けをするようになり、危険なやりとりの橋渡しをしてしまったのでございます。本当に愚かなことです。
この娘デ・ビレナは有力貴族ヌニェスの親戚にあたるので、その娘がいつ牙をむくかわからぬ庶子エンリケ様の妻となるなどということは、決して御義母上マリア様や王の第一側近であったダルブルケルケの気に入るものではありませんでした。
何よりマリア様がお怒りになられたのは、虜囚の立場におかれて尚尽きることのないレオノールの権力と家門にたいする執着でございます。
囚われ身の、なにひとつ決定権などないはずの女が庶子の息子の結婚を王であるペドロに許可を得ることもなく勝手にすすめるなどということも許せません。
怒ったマリア王妃様とダルブルケルケは、それまではかろうじて許可していたエンリケ様やほかの子どもたちとの手紙のやり取りも禁じ、さらにはレオノールをカルモナ城にうつし、さらに厳しい監視下に置くようになりました。
結果、一度はおさまったかに見えたあなたと異母兄エンリケ様たちの争いはふたたび火を吹き、エンリケ様はセビリアに逃亡されることになったのですね。
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