牢獄の夢

平坂 静音

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 いくら王の愛を肥料としてどれほど大輪の花を咲かせても、自分の身が妾と呼ばれる根を張ることも実をなすこともないいっときの徒花あだばなだったということに、なぜ賢いといわれる彼女が気づかなかったのか不思議でございます。

 そう。このころの年代記作家が「彼女はまるでカスティーリャ王国の君主夫人であるかのように、接吻を許すために手を与えていた」と書き記すほどに権力を持ち、法務官も大法官も言いなりにさせ、王の不在には国王代理として臣下からの報告を聞くというふうに、さながら女帝としてカスティーリャに君臨しつづけたこの貴婦人にも、いつしか没落の日が訪れることになったのでございます。

 王の寵愛によって権力を得た彼女が失権したのは、まさにその王の死によってでした。

 頑健でまだお若かったアルフォンソ王の死はあまりに突然でした。

 あっけなく黒死病で遠征先でお隠れになってしまわれたのでございます。死神の魔手は、乞食であれ王侯貴族であれ容赦なく伸びてくるものでございます。

 そして王が亡くなったとき、一夜にして天地が入れかわるほどの衝撃がレオノール一派を襲ったのでございました。

 お義母上マリア様を苦しませ、夫ペドロの少年の日に暗い影を落とした魔婦とはいえ、わたくしはその当時のことを人づてに聞いて、さすがに今度はこの女の身の上にも多少は哀れみを覚えざるを得ませんでした。

 わたくしは先ほど一夜にして天地が入れかわるという言葉を述べましたが、人の人生にこういうことがどれほど起こりえるでしょうか。レオノールとその子どもたちはまさにこの運命の激変を経験したのでございました。
 
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