牢獄の夢

平坂 静音

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 なぜアルフォンソ陛下がマリア様を愛せなかったのか。
 
 レオノールがいたから愛さなかったのか、もしくはたとえ彼女がいなくとも愛を感じる相手ではなかったのか、それはわたくしが生まれる前のことで知るよしもないのですが、この世には神と運命によってさだめられた王家の縁組ではあっても、相性の悪い夫婦というものあるものだと侍女たちの会話で聞いてはおりました。そして、このお二人の場合はまさにそうだったようでございます。わたくとペドロの関係も……。
 
 マリア様はペドロのまえにも彼の兄となる王子を産みましたが、これは不幸なことにすぐ亡くなり、二年後にペドロという男子を得たときの喜びはどれほどのものだったことか。
 
 それが、アルフォンソ陛下は嫡子を得ると、もはや用はないとばかりに赤子だったペドロともども田舎の城に母子を追い払ったのですからむごいことでございます。そして、その行為の裏にはレオノールの思惑があったことは確かでしょう。彼女自身がなにをしたというわけでなくとも、アルフォンソ陛下は妾をえらぶか正妻をえらぶかの選択で妾をえらんだのでございます。

 ポルトガルとカスティーリャの二大王家の血をひく誇りたかいマリア様にとって、一介の妾にここまで踏みつけにされたのですから、田舎での日々はさぞお辛いものだったはずでございます。

 華やかな王宮でのアルフォンソ陛下とレオノールの仲睦まじい日々、その子どもたちの王の常軌をこした寵遇ちょうぐうぶり、憎い仇の一門の専横ぶりを、僻地へきちでどのような想いで聞いていられたことか、眠れぬ夜には悔し涙をながし、明け方の夢には憎い女の哄笑こうしょうを聞き、さぞ歯軋りしたことでございましょう。
 
 とはいうものの……、わたくしはいささか意地悪く思うことがあるのですが、レオノールは気づかなかったのでしょうか。
 
 このころのキリスト教社会では、正当な王位は嫡出子でなくては得られぬという鉄の法則を。
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