牢獄の夢

五

　その敵地へと旅だっていく勇士たちの遠影を、一人とり残され城から見送らねばならなかった少年の心中はどんなものだったのでございましょうか。考えれば考えるほどに切ないものに思えてまいります。

　それは女の身に置き換えてみますと、お伽話などに聞く、素晴らしい舞踏会や宴に出してはもらえぬ哀れな乙女のような気分でしょうか。わたくしは幼い日に乳母が語ってくれた、そんな不幸な少女のお話を思い出しました。

　王が侍女に手をつけて生ませた庶子の娘は、たいへん美しいがゆえに異母姉たちに妬まれいじめられ、華やかな宮廷の宴にもよんでもらえぬ、というどこの国にもよくある継子苛いじめのお話でしたが、この場合、夫ペドロは正嫡であり、本来なら王のそばにいるべき正統な王子なのですから、その胸につのる憤怒と悔しさははかりしれぬものだったはずでございます。

　ペドロの悲しさ悔しさもさることながら、ともに夫の背を見送った御母堂マリア様のご無念はいかほどのものだったことか。

　お義母上ははうえマリア様はポルトガルの勇敢王アフォンソ四世の娘であり、ポルトガル王家とカスティーリャ王家は政治的にも距離的にも深いつながりがあり、幾度もの政略結婚でマリア様とアルフォンソ陛下は母方の縁からも父方の縁からもいとこ同士という血の濃い関係なのですが、これがどうもいけなかったのかもしれません。

　普通の片親だけでつながるいとことちがい、両親の姉弟両方からつながるお二人の身体にながれる血はあまりに濃密で、その血の濃さは異母兄姉ほど、いえそれ以上にねっとりと濁にごったものになっていたのかもしれません。