牢獄の夢

平坂 静音

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 これは、神がわたくしに与えた試練だったのでしょうか。教皇様ならそうおっしゃって、いたらぬわたくしをさとされたかもしれません。
 
 教皇様。そうだわ、教皇様、わたくしの魂をお救いくださいませ。ああ……わたくしは今この状況で日毎、夜毎、悪魔の誘惑とたたかっているのでございます。
 
 悪魔はつねにわたくしをたぶらかそうとしております。そしてか弱いわたくしは、悪魔のその狡猾な甘言についつい惑わされそうになるのでした。
 
 悪魔は、見目うるわしい男の姿を借りてわたくしの夢枕に立つこともあれば、美しい女の姿であらわれてくることもあります。そのたびにわたくしはなけなしの誇りを必死にかきあつめて、死に物狂いの勇気をふりしぼって悪魔に対抗するのでございますが、ふとすると足元をすくわれそうになるのでした。

(王妃様……、王妃様……、こんなところにいらしたのですか?)

 ああ、出ました、悪魔です。今夜は美しい女人の姿であらわれました。

(まぁ、なんというお気の毒な……。高貴な家柄の姫君ともあろうお方が……、まぁ、あんとお可哀想に)

 大げさに同情ぶかげに言いますが、その黒い目にはあざけりがきらめいておりますことを、わたくしは見抜いておりました。

「こっちへ来ないで!」

 わたくしはあられもなく叫んでおりましたが、悪魔はせせら笑うばかりです。

 ああ、この女……。女の姿をしている悪魔か、悪魔が化けた女なのか……、この女こそ傾城けいせいの妖婦です。わたくしの夫をその優しそうな顔で誑かし、正しい道から外れさせ、権力を手中にいれ、なおそれを素振りにも見せず賢女ぶる鼻もちならない毒婦でございます。

(王妃様、こんな暗い部屋でそんな粗末なお召物で……。まぁ、なんというお気の毒なことでございましょう)

 わたくしは怒りに気が狂いそうになりました。そういう相手は、白絹のドレスに首にも腕にもダイヤモンドやサファイアの飾りをきらめかせております。すでに王妃のごとく、その黒髪の頭上には見えない王冠が燦然さんぜんとかがやいているようで、あまりの悔しさにわたくしは唇を噛みしめました。この女は、もうすっかり王妃気取りのようです。
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