牢獄の夢

平坂 静音

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 わたくしの嫁入りが決まったのは、十四になる前のことでした。

 十二で嫁にいくのもめずらしくはない頃のことでしたが、お相手はカスティーリャの王と聞かされたとき、わたくしは泣き出してしまいました。

 カスティーリャなど行きたくはない、と嘆くわたくしを母上や兄上、姉上はなだめすかし、説得しました。
 お相手のペドロ様は、若く凛々りりしく、それはご立派な方だと。年頃も似合いでわたくしたちはきっと良い夫婦になれると言われました。

 この時代は十代の乙女が六十代の老王と結婚することもごく普通にございましたから、同じ年頃で結婚できるのは運が良い方なのです。

 でもわたくしは、どういうわけかカスティーリャに行くのが嫌で駄々をこねました。思えば、本能でなにやら不吉なものを予知していたのか、若い娘なら誰もが持つ結婚への恐怖心だったのか。

「ブランシュ、我がまま言ってはだめよ。女なら誰しもいつかは嫁に行かなければならないのよ」

 そう言ってわたくしをなだめた姉ジャンヌは後にフランス王妃となります。幼少のころから聡明で物分かりの良い姉は、王妃となるべくして生まれてきたのでしょう。

 一方、わたくしは末に生まれたせいか母が時折眉をしかめるほどにかんが強く、侍女たちを困らせることもありました。そういうところは兄のルイと似ているところもあります。

 結婚を嫌がったわたくしは馬に乗って従者も連れず森へ遠乗りに出てしまいました。やや反抗期でもあったようです。

「姫様、ブランシュ姫様、どちらに?」

 当時城に逗留とうりゅうしていた吟遊詩人のピエールが城門を出ていくわたくしを見咎みとがめて、驚いてついてきたのを、多少お転婆だったわたくしはかえって面白がり、少し馬の速度をゆるめては、追いかけてきたピエールを振り切り、彼が近づいてくると、また馬の腹を蹴って逃げ出したりしておりました。

「こっちよ、ピエール、こっち」

 森のなかで、馬を下りたわたくしは彼をからかって草の上を逃げまわりました。
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