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親 三

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「僕ぐらいの歳になるともう友人のほとんどは結婚していて、子どもを持っている者も多いんですよ。この前、高校時代の友人とちょっと電話で話したんです。彼には小学生になる娘がいるんですが、小学生でもけっこう扱いにくいところがあって、相当手を焼くらしいです。こうなってみてけっこう自分の親の苦労がわかるって言ってましたね。僕なんか三十五にもなって結婚もしてないし、もちろん子どもなんかいませんから、子育ての苦労なんてわからないですからね。父兄や子持ちの同僚にやっぱり言われるんですよ、親の気持ちがわからない、って」
 一瞬、由樹の甘いマスクにかげりがはしった。
「子どもがいても子どもの気持ちなんてわからない親が大勢いるから、これだけ世のなか問題があふれかえってるんじゃないかと思うんですけれどね……。でも、先生もやっぱりそのうち結婚するでしょう? そうしたらまた違う見方をするようになるかもしれませんよ」
「今のところ、結婚はねぇ……。親もはやくしろってうるさいんですけれど」
 この話題は苦手だった。話をそらしたくて、相手にふってみた。
「なかなかいい相手が見つからないんですよ。村田さんは、まぁ、まだ若いけれど、やっぱりいつかするでしょう? いい人がいたら二十代のうちにしておいた方がいいですよ。僕みたいに三十代の大台にのってしまうと、ますます踏み切れなくなって、下手したら一生独り身ってことになりかねない」
「僕は、しないと思いますよ」
 声音はやわらかだが、奇妙な重みがふくまれていた。
「それこそあと何年かたったら考え方も変わりますよ。まわりがうるさく言ってくるもんですし、やっぱり子どもが欲しくなってくるもんですよ」
「僕の親はもうあきらめていますよ。それに、僕は子どもを持つ気はないですし」
 二十四であきらめはしないだろう。それは若いうちだからそう思うものだろう。そう言おうかと口を開きかけたとき、病院が見えてきた。
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